支援歴26年のプロが見出した、認知症「本当の特効薬」

介護をパッとラクにする方法、教えます
右馬埜 節子 プロフィール

「笑い」で「場の換気」をして問題解決

認知症介護では「平和で穏やかな雰囲気」をその場に生み出すのが肝心です。いい雰囲気を生み出す強力な手段となるのが「笑い」なのです。

認知症の人は、私たちにはちょっと理解できないような「おかしな言動」をしてしまうことがあります。たとえば、

  • もの忘れがひどくなっていることに気づいて、なんとなく落ち着かない
  • 自宅にいるのに「帰ります」と言って出ていこうとする
  • 「俺と付き合ってくれ」などと女性の介護者を誘う

こうした問題も、「笑い」がどこかへ吹き飛ばしてくれるでしょう。

介護者は多忙です。「笑ってなんかいられないよ!」という人もいるでしょうが、笑いには不安やつらさを一気に吹き飛ばし、場の換気をするパワーがあるのです。重苦しかった空気をパッと明るくできます。そんな言葉かけの事例を挙げてみましょう。

たとえばある介護職の女性は、認知症の男性(既婚)から「あんた、嫁にこんかね」と誘われたことがあるそうです。こんなときその男性に「奥さんがいるでしょう!」と事実を告げるのは、必ずしも得策とはいえません。本人は認知症のため、「自分に妻がいる」ことがわからなくなっているのです。事実を告げられると混乱してしまうでしょう。

女性はそのことをよく知っていました。そこで、こんなふうに冗談で返したそうです。

「あら、賞味期限切れてるわよ」

まだ若い人なら、

「ごめんなさい、売約済みなの」

と言ってみてもいいでしょうね。私の場合は、「俺も嫁がほしいなあ」と意味ありげに言われたので、

「私も息子の嫁がいないかと思って、デパートへ買いに行ったんだけど、売り切れだったわ」

と言ったら、その男性が大笑いしていました。大笑いとまでいかなくても、お年寄りがプッと吹き出してくれたらこちらのもの。もともと認知症のもの忘れがあるので、笑った瞬間に言ったこと自体をパッと忘れてしまいます。

認知症高齢者の性的な言動は、介護現場で「セクハラ」として問題になることがあります。冗談にできない深刻なケースもありますが、そうではない、軽く他愛もない例もありました。そんな事例を解決する1つの手段として、ここまでにご紹介したような言葉かけを覚えておいてはいかがでしょうか。

お年寄りに挨拶するときも、その場をちょっと明るくするいろいろな工夫ができます。単に「おはようございます」「こんにちは」と言うだけでなく、続けて、

「お元気そうですね! 顔色もよし、器量もよし、懐具合もよさそう。それに根性もいいしね」

「出がけにちゃんとチェックしましたか? 火の元よし、戸締りよし、器量もよし、って」

と、ちょっと楽しげに言ってみましょう。

物忘れを自覚していて、「何か変だ」と不安になっている人がいたら、明るくこう言ってみましょう。

「頭のなかがいっぱいだから、忘れるくらいでちょうどいいのよ。そうしないと新しいことが入らないよ」

【マンガ】不安も笑いに変える
  物忘れを自覚している場合も、その不安を笑いに変えよう(『認知症の人がパッと笑顔になる言葉かけ』より)

こんな会話になったこともありました。認知症のトミさん(87歳)が言います。

「私、ご飯食べたかしら」

"食べたか食べていないか"ということ自体をすっかり忘れて、少し不安になっているのです。このような物忘れが認知症の主症状ですが、不安は認知症を悪化させかねません。私はすぐ、こう応じました。

「あら、私も食べたかしら。トミさんが忘れたから、私も忘れちゃった。これでおあいこね」

半ば意味不明のやりとりですが、トミさんの不安げな表情は一変。笑い合って終われました。