認知症は脳の病気です。現在のところ、脳をもとに戻すことはできませんが、認知症の本人やその家族が幸せに暮らせる「特効薬」は確かにあるのです。介護保険制度ができる以前の1993年から、現場で認知症の相談に対応し続けてきた著者が解説します。
記事中の漫画・イラスト 秋田綾子
覚えのある方がいるかもしれませんが、以前、「認知症」の代わりに、まだ「痴呆」という言葉が使われていた時代には、こう言ってのける人がいたものです。
「ボケた本人は気楽でいいよ。大変なのは家族だ」
「痴呆になると、なーんにもわからなくなるからね」
今もときどき、同じような言葉を聞きます。でも、本当にそうでしょうか。「なーんにもわからない」どころか、認知症の人は自分のなかで起こっている異変に敏感に気づいています。以前はできたことが上手にできなくなり、家族や友人ともうまくいかなくなるため、不安に包まれます。
この不安のため、認知症の人は私たちより混乱しやすくなっています。
残念ながら、認知症を根治する治療法は、まだ開発されていません。では、いったん認知症になってしまうと、その人には暗い余生しか残されていないのでしょうか?
そんなことはありません。混乱する人がいる一方、私は、明らかに認知症なのに、いつも朗らかで落ち着いていて、笑顔の絶えない人を何人も見たことがあります。
これを私は「ニコニコアルツハイマー」の状態と呼んでいますが、なぜそんなふうにいられるのでしょう。本人の性格もあるでしょうが、周囲が上手にサポートしているからです。
介護者の手助けひとつで認知症の人の混乱は減らせるし、笑顔すら引き出せるのです。
そう、この笑顔こそ、認知症の「特効薬」だと私は思っています。
目の前で人が喜ぶのを見て、自分も嬉しくなった……、そんな経験、あなたにもありませんか? 認知症の人が喜べば、周囲の人も嬉しくなります。毎日の生活が快適なものになります。認知症の人に関わっている全員に、明るさが伝わっていくのです。
人は誰でも病み、衰えます。それは仕方のないことですが、いつもニコニコで、みんな「何となく平和」で最期まで過ごせたなら、十分幸せな人生だったと言えるのではないでしょうか。私はそうなるように認知症の人を手助けしていきたいと思っています。そして、この記事を読んでいるあなたにも手助けしてほしい……そう願っています。
「手助け」といっても、難しく考える必要はありません。まずは言葉かけから始めてみましょう。今回、私が紹介するのは、本人も家族も、そして介護職も「みんなが笑顔で過ごせるようになる言葉かけ」です。