「死にたい」とグチる親を慰めてはいけない

本当に必要なのは「共感の言葉」
右馬埜 節子 プロフィール

「慰め」はまったく効果なし。じゃあ、どうする?

この不安のためだと思いますが、認知症の人は鬱々(うつうつ)とした気分になりがちです。口からはグチも出れば、恨み言が出ることもあります。たとえばある施設を利用中の女性は……、

私は男運が悪くてね……。

ハタチで見合いして結婚したけど、最初のダンナは事故で死んじゃった。

再婚して子どもができたけど、その子は10歳で死んでしまった。

するとこの2番目の夫は、「お前が悪い!」「お前が悪い!」と私をさんざん罵って、いじめ抜いて、家から追い出したのよ。

その頃には両親も亡くなっていたから、ひとりでずいぶん苦労した。

『女三界に家なし』とはよく言ったもんよ。

挙げ句、歳をとって、病気になって、今はこんなところで人様の世話になって……。ああ、まったく死にたい。早く死にたい。死なせて欲しい……。

【マンガ】身の上を語ってはしくしく泣きだす
  身の上を語ってはしくしく泣きだす……(『認知症の人がパッと笑顔になる言葉かけ』より)

……こんなことを言ってはしくしく泣きだします。しかも物忘れが進んでいるため、子どもの年齢が「8歳」になったり、「夫が浮気して逃げた」などと話が変わったりします。

本人がつらいのはもちろんです。だから周囲の人は親身になって聞いてあげようとします。ですが、この、どこか曖昧で暗~い話が、毎日のように続いたとしたらどうでしょう。誰だってうんざりするのではないでしょうか。

実際、私は家族や介護職から、

「(お年寄りが)何かというと『死にたい』ばかり言うので、どうすればいいのかわからない」

という悩み相談を何度も受けてきました。そんな問題を解決するいい方法があるのです。

お年寄りのグチや不平不満で悩んでいる介護者は、私のところに来るまでにたいてい、「そんなこと言わないで」と励ましたり、「これからは、いいことがあるわよ」と力づける言葉をかけたりしているものですが、残念ながらたいした効果はありません。

グチを解決したいなら、介護者はまず、「生きることに疲れたのかな?」と考えて、

  • 「そう。そんな気持ちなんですね」
  • 「こんなはずじゃなかったものね」
  • 「死にたい気持ちにもなりますよね」
  • 「人生イヤになりますよね」

と肯定し受け止めてあげてください。できればさらに加えて、

「でも私は、××さんが好きだから、いなくなったら寂しいな」

と伝えてみてください。きっと効果があると思います。

コンプレックスの塊! 荒れる女性の心を鎮めた一言とは

実際、私はお年寄りにこんなふうに対応したことがあります。

ちょっと気難しいユリコさん(78歳)。デイサービス(日中、要介護者を預かる介護サービス)に通うようになってからも1日中、不平不満ばかり。入浴・食事・送迎など、何かしようとするたびに、職員に反発してグチが続きます。私が見る限り、自己評価も下がりきって、常に気持ちが塞いでいるようでした。「かまってほしい」という甘えもあるのでしょうか。

ユリコさんが落ち込んでいる原因のひとつは、自分と妹を比べてしまうところにあるようです。若いころのユリコさんは、女学校でも成績優秀でおまけに美人。「小町」と言われたこともありましたが、縁に恵まれず生涯独身。これに対し妹は、幸せな結婚をして孫にも恵まれていたのです。

「あたしより器量も悪いのに、なんであの子ばっかり……」

と、なにかあるたびに毒を吐いていました。そんなとき私は、必ずいったん経歴を褒めます。「小町と言われたほどの美人で、おまけにあの時代に女学校まで出たなんてすごいわよねえ。うらやましいわ」

そして、しみじみこう付け加えるのです。

「でも、こんなはずじゃなかったわよね」

するとユリコさんは、「そうなのよ……」と目を細め、穏やかに昔を懐かしみ始めます。幸せだった若い頃の話を聞かせてもらいました。過去は変えられませんが、言葉かけの工夫ひとつで少し穏やかに過ごしてもらうことができたわけです。

【写真】穏やかに昔を懐かしみはじめた
  言葉かけの工夫で、穏やかに昔を懐かしみはじめた  photo by gettyimages

もうひとつ、こんな言葉かけでお年寄りの“うつ気分”を晴らすことができた日もありました。

こんどは姉にコンプレックスを抱くハナコさん(87歳)のケース。介護職員との、ある日の会話を再現します。

ハナコ「姉は美人だからさっさとお嫁にいったの。売れ残った私は実家のお荷物よ」職員「そうなの……、苦労が多かったのねえ」
ハナコ「そう、器量が悪いと損ばっかり……」
職員「いいの。ハナコさんは心美人だから。お得もたくさんあったしね」
ハナコ「そうかあ。お得ね……」(ちょっと顔が明るくなる)

「心美人」この言葉は有効です。よく考えると意味不明ですが、「あなたは心が美しい」と肯定されてイヤがる人はいません。どんな場面や人にも使え、しかも最高の誉め言葉になります。

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