認知症の人は「抑うつ状態」に陥ることがあります。気分が落ち込み、生きる意欲を失って、いつもブツブツぼやいている……、たとえば自分の老親がそんな状態だったら、誰だって困るでしょう。何とかその暗さを解消してあげたいと考えるのが人情というもの。どう接していけばいいのでしょうか。
記事中の漫画・イラスト 秋田綾子
認知症の人は、とてつもない不安を抱えて生きている
「認知症」の主な症状が「もの忘れ」であることは、みなさんもよくご存じでしょう。しかし、人は認知症になったからといって、いきなり何もかも忘れてしまうわけではありません。もの忘れは徐々に進行し、「できないこと」が増えていきます。すると、勘違いや誤解が多くなり、周囲の人と対立しやすくなります。
このため、とくに認知症の初期段階にある人は、
- 自分のなかで、何か変化が起こっている
- 簡単にできたことが、できなくなっている
- 家族や周囲の人と、何かかみ合わない
- なぜかわからないが、いつも対立する・怒られる
などと感じて、不安になります。
私たちも不安になることがあります。ところが認知症の人の不安は、どうやらそれとは比べものにならないようです。ある若年性認知症の女性は、私にこう訴えてきたことがありました。
- 「ねぇ、どうしてこうなるの?」
- 「私は壊れちゃうの? 怖いよ」
- 「これからどうなるの?」

ある若年性認知症の女性は不安を訴えた photo by gettyimages
こうした言葉を、胸が張り裂けそうな思いで聞いた記憶があります。認知症の人が抱えているのは、このように深く、強い不安なのです。