つまり、図2で「ほんものの虹」を説明することはできない。虹が空中に図1のように半円形の美しいスペクトルとして見えるメカニズムを説明するのは、それほど簡単なことではないのである。なにせ、あの天才・デカルトですら相当に苦労したのだ。

虹が半円形になることはさておき、まず、空中に光のスペクトルが帯状に「見える」メカニズムについて考えてみよう。
虹を支配する「屈折」のヒミツ
図3に示すように、1個の水滴(三角柱状のガラスのプリズムとは異なり、球状である)に太陽光線が入射する場合のことを球の断面で考える。
光の一部は〈屈折―屈折〉を経て水滴を通過し、一部は〈屈折―反射―屈折〉を経て入射側に出てくる。

光が〈屈折―反射―屈折〉を経て外側に出てくるとき、光の波長(色)によって振れ角(より正確にいえば屈折率)が異なるため、最も大きく曲がる紫(入射光と反射光のなす角度40度)から最も曲がりが小さい赤(同42度)まで、可視光の色のスペクトルに分散する(図2で説明した通り)。
このような1個の水滴からのスペクトルを観測すると、観測者の目には一つの色しか見えない。図3には赤しか見えない場合が描かれているが、見える色が目あるいは水滴の位置(高さ)に依存することは理解できるだろう。
しかし、空中には無数の水滴が浮遊しており、観測者には、結果的に赤から紫までの色のスペクトルが帯状に見えることになる(図4)。観測者の目には、水滴を経たさまざまな色の太陽光が直接、飛び込んでくるわけで、図2に示されるようなスクリーンは不要なのである。

あるいは、水滴の一つ一つが微小なスクリーンだと考えることもできよう。これで、虹が帯状の色のスペクトルに見える理由が理解できたと思う。
※ホンモノの虹が半円に見える理由については、書籍版『いやでも物理が面白くなる〈新版〉』をご参照ください。
光だけじゃない!「音の屈折」って?
夏目漱石の『こゝろ』の中にも「世の中が眠ると聞こえだすあの電車の響き」と書かれているように、昼間は聞こえない遠くを走る列車の汽笛や電車の音が、夜になるとはっきり聞こえた、という経験を持っている人は少なくないだろう。
その理由について、考えたことがあるだろうか?

もちろん、夜になって周囲が静かになったということも無視できないが、ここには音の性質に関わる本質的な理由がひそんでいる。