『きのう何食べた?』が描く絶妙な“距離感”に私たちは魅了される

よしながふみと家族の食卓
福田 里香 プロフィール

よしながふみという「時代の開拓者」

栴檀は二葉より芳(かんば)し……ということわざは、栴檀(香木の白壇)は発芽から香気がするように、才能ある人物は最初から目立って優れているという意味だが、もちろんこれはマンガ家にも当てはまる。

よしながふみは、確実にこの系統だ。

彼女のマンガ家としての歩みをざっとまとめてみよう。

よしながふみは、もともと学生時代に商業マンガの二次創作からマンガの道に入ったコミケ出身の同人作家だ。

当時から圧倒的なストーリーテラーぶりを発揮し、コミケでは壁サークル(会場の壁際に配置しなければ、捌き切れないくらい人が並ぶ人気作家のこと)として一時代を築いた。

評判を聞きつけたBLマンガ誌から声がかかり、1994年にオリジナルBLマンガ『月とサンダル』で商業誌デビュー。

本作は短篇ではなく、同人時代の実力を見込まれたのだろう、新人には破格のデビュー作連載だった。

これが単行本にまとまると、さらにマンガ読みの注目を集めることとなる。

少女マンガ誌からもオファーが来だし、2001年にドラマ化、その後も映画化、アニメ化された『西洋骨董洋菓子店』でブレイク。

また、自伝を想起させるエッセイ風フィクションで綴ったグルメマンガ『愛がなくても喰ってゆけます』を青年誌で執筆。

さらに2004年に連載開始した大作『大奥』は、男女逆転の時代劇SFで、ドラマ化・映画化された。

現在は、いよいよ大詰めの幕末編に突入した『大奥』を少女マンガ誌で、そして「何食べ」を青年マンガ誌で同時連載中である。

 

第1話掲載のモーニングの表紙に衝撃を受けた

いまでこそ、同人作家経由のBLマンガ家が他ジャンルの商業誌で活躍するのは当たり前になったが、その先鞭をつけたのは、よしながふみだ。

2007年当時、何食べの連載第1回が載ったモーニング誌の表紙カバーは、スーツと普段着の中年男性ふたりが、仲良く笑顔で買い物袋を提げて歩いているという、よしながふみのイラストだった。

それがコンビニの棚に並んでいるのを目撃したときのインパクトというか、モーゼが海を割った感(注:個人的な感覚です)は忘れられない。

あ、海って割れるんだね、道が出来たから歩いて渡れるんだ、なるほど!……みたいな。