その実験、「孫子の兵法」に学ぼう! 理系のための卒論術

実験とはこれすなわち戦である
ブルーバックス編集部 プロフィール

敵の虚をつけ

「守りの厚いところを攻めれば攻撃は失敗する。戦争はだまし合いであり、相手が失敗するように自軍の態勢を偽装すべきである。攻撃が失敗するのは、敵にだまされるからだ」

科学におけるさまざまな未解決問題も、これまでに挑戦してきた科学者たちの攻撃目標が悪かったのです。「この問題はあそこが突破口だ」と衆目が一致している箇所を攻めてみたものの、意外にも鉄壁で歯が立たなかった……というだけのことです。

奇襲こそ勝利の鍵なり Photo by gettyimages

突破口についての「下馬評」は、まず当たらないと考えるべきです。もし当たっているなら、みながチャレンジしますから、たちまち問題は解決しているはずです。

科学において残存している問題とは、下馬評が的外れで、突破口が見つかっていないものなのです。

計算機科学者のミンスキーは、「人々と逆のことをやればだいたい正しい。世間のほとんどはまちがっている」と言いましたが、まさにその通りです。みんなと同じことをやって成功するという研究はまずありません。

ただし、なんでも奇をてらえば研究が成功するというわけではありません。先人の研究成果のどこまでを「定石」として採用し、どこから独自の奇襲作戦に移るかを、冷静に見極めなければ研究は成功しないのです。

できなかったら「機能」にしてしまえ

「急がば回れ。迂回することが実は近道ということがある」

困難に突き当たったら、当初の目標に執着せず、目標を再構築することが大事です。

これは、計算機科学者ワインバーグの「できなかったら機能にしてしまえ」という言葉に通じます。

実験はやってみると、いとも簡単に失敗します。机上の空論では想定していない要素が現実世界には充満しているからです。

実験失敗…… Photo by gettyimages

たとえば「アルコール媒質中で反応が進むはずだ」と思いきや、ピクリとも反応が起きなかったとします。調べてみたら、空気中の微量の水分がアルコール媒質に混ざり、反応が阻害されているようです。その水分の除去が、現有の設備ではできないとしたら、研究は失敗だとあきらめるべきでしょうか。

転んでもただで起きてはいけません。水分が反応に干渉するならば、どう干渉するのかを調べることです。水分と反応効率の関係を実験で計測するのです。そうなると、当初は「○○を実現させる」という研究だったものが、「○○の実現に必要な関係則を調べる」という研究になってきます。

これでも十分に論文発表に値します。