『宝島』真藤順丈氏(左)と『沖縄アンダーグラウンド』藤井誠二氏

私たちはなぜ沖縄を書くのか~沖縄書店大賞受賞記念対談

藤井誠二×真藤順丈

沖縄県内の書店員たちがいま一番読んでほしい本を選んだ「沖縄書店大賞」が4月4日に発表され、小説部門で真藤順丈氏の『宝島』が、沖縄部門で藤井誠二氏の『沖縄アンダーグラウンド』がそれぞれ大賞に選ばれた。

戦後の沖縄を駆け抜けた戦果アギャー(米軍基地から物品を収奪し、住民らに分け与えた一団)たちの青春と苦悩を描き、第160回直木賞を受賞した『宝島』。消えゆく沖縄の売春街に生きる人々を取材し、その語られざる歴史を記したノンフィクション作品『沖縄アンダーグラウンド』。沖縄出身ではない二人の書き手が沖縄書店大賞を受賞したことで、各地で話題を呼んでいる。

なぜ彼らは沖縄を題材に書くのか。どんな思いで沖縄を書いたのか――受賞直後に沖縄で行った対談で、喜びと葛藤を明かした。

 

ようやく「書いてよかった」と思えるように

藤井:「沖縄書店大賞」は今回で5回目となる賞で、僕が受賞した「沖縄部門」は、その名の通り沖縄について書いた本が選ばれてきましたが、「小説部門」で沖縄を題材にした本が選ばれたのは今回が初めてで、書店員さんたちの投票でも『宝島』はほかの作品と大差がついた、と聞いています。

真藤:本当に嬉しいです。感想は、と聞かれれば「嬉しい」の一言に尽きます。

『宝島』は沖縄の戦後を描いた小説ですが、僕は沖縄の人間でもないし、戦後すぐの時代を生きたわけでもない。そんな人間が、沖縄を舞台にしたエンターテイメント小説を書いていいのかという葛藤は、『宝島』を書く前も、書いているときもずっと心の中にありました。

何度も何度も悩みながら、最終的には「小説は、どの世界のどの時代の、どの人物を書いてもいいはずだ。もしも作品について厳しい批判が出たり、間違いがあったり、違和感があると批判されたら、すべて受け止めよう」と吹っ切ることで、小説世界のすみずみまで覚悟が行き渡り、作品を書き上げることができたんだと思います。

幸いにして文芸の世界では高い評価をいただいて、直木賞も受賞できた。その一方で、沖縄の人たちがこの小説をどう読むのか、というのは別の評価軸にあると思っていたので、常に心のどこかに引っかかっていました。

そんななかで沖縄書店大賞もいただいて、沖縄の読者の声もたくさん届くようになって……様々な世代の方々が受け止めてくださったんだな、と実感できました。ようやく『宝島』を書いてよかった、と思えるようになった――それが偽らざる本音です。

真藤順丈氏(左)と藤井誠二氏

藤井:僕は十数年前から沖縄に取材の拠点を構えて、毎月のように沖縄に来てカンヅメになって原稿を書いたり取材をしているんですが、たしかに沖縄の人たちは、「内地」の人間が沖縄のことをどう書くのかということに敏感なところがあるな、と感じています。

そもそも沖縄の人たちは、自分たちの歴史を残す・書くということにすごく熱心です。沖縄県内だけで60を超える出版社があって、毎月のように沖縄の歴史や出来事に関する新刊が出るのはその表れ。自費出版で、自分や郷土の歴史を残す人も数多くいます。

「県産本」という一大カテゴリーがあるのは沖縄だけです。

先日も、沖縄県警がまとめた大部の資料を二万円で買いました。沖縄の戦後史と警察との関係がぎっしりつまった貴重な本です。そういう市誌や村誌のような資料本が古本屋で普通に出回っています。

そういう本をめくっていると、沖縄に生きる一人一人が本を書けるんじゃないかっていうぐらい、過酷で理不尽な歴史に翻弄された怒りや哀しみ、その時代を生き抜いた人間のエネルギーがみなぎった物語が存在していることがわかります。

それぐらい、自分たちの歴史に責任と誇りを持っている人たちが『宝島』をどう受け止めたか。真藤さんが気になっていたというのも、よくわかります。

でも、真藤さんが『宝島』を生半可な覚悟ではなく、魂を注いで書いたということは、この小説を数ページでも読めば伝わると思いますよ。