働き方改革の弊害を打破するためには、「二正面作戦」が必要だ

「名ばかり正社員」を防ぐためにも
竹信 三恵子 プロフィール

貢献強化やノーワークノーペイまがいの案も

もう一つの「改革」の柱は「同一労働同一賃金」だ。これについては、今年2月の大阪医科大判決のように、非正規にも手当や賞与、退職金を認めるという判決が相次ぎ、「働き方改革の成果」として報道されている。それは前進だ。

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だが、「同一労働同一賃金」というなら「労働への対価」である基本給の改善があってもいいはずだ。だが、その是正判決は、これまでのところ皆無だ。

今回の「同一労働同一賃金」は、一律に支給される手当などについては非正社員にも認めるとされており、それが一定の前進を生んだ。

ただ、基本給については、正社員が「能力給」「成果給」「勤続給」などで評価されているとき、そのものさしで見て非正社員の仕事が同じなら同じ賃金、という考え方だ。

 

だが、「能力」「成果」のような、会社の恣意に左右されやすいものさしで、「非正社員の仕事は単純で価値が低い」といった雇う側の思い込みを打ち破れるかは疑問だ。2000年前後に「成果主義」が流行したときは、正社員たちからも「基準があいまいな評価による人件費削減策」との不満が高まったほどだ。

「『日本型』業績給与社会は(上司に寄り添っておべっかを使うだけの)茶坊主を増やすだけである」(齊藤勇『人はなぜ、足を引っ張り合うのか―自分の幸福しか考えない人間がいる』プレジデント社、1998年)といった言説も登場している。

「勤続給」については、安くしたければ非正規を短期で雇止めできる。つまり、会社の胸先三寸となりやすい賃金決定が、非正規も含めて固定化されたことになる。

ILOなどの国際基準では、差別を是正するために設けられた中立機関などが、仕事の中身を、スキル、責任、負担、労働環境の四つのポイントで評価して点数化し、合算したものを比べて同じなら同じ賃金、と言う形で客観化を図ることが推奨されている。

上司の恣意的な評価に客観基準を対置し、働き手が反論できる仕組みを通じて「茶坊主」が評価される事態を改善することが狙いだ。今回の日本の企業風土に合わせた「日本型同一労働同一賃金」は、そうした会社の裁量権を制約する国際基準を、押し返す効果がある。

経団連は「同一労働同一賃金の実現に向けて」(2016年)で、「同一労働」とは「職務内容や仕事・役割・貢献度の発揮期待(人材活用の仕方)など、さまざまな要素を総合的に勘案し、自社にとって同一労働と評価される場合に同じ賃金を支払うこと」とし、客観的な職務評価ではなく、会社が「同一」と評価するものとしてきた。

「働き方改革」は、そうした会社の評価次第の「同一労働同一賃金」論の固定化といえる。

しかも、「同一」の判断では転勤の有無などの「職務内容・配置の変更範囲」や「その他の事情」も考慮して評価される。そうした基準が標準とされていくことは、転勤を断らざるをえない女性やケアのある社員、共働き社員には不利に働きかねない。また「その他の事情」を利用すれば、会社の都合を大幅に認めやすくなる。

仕事内容も転勤の有無も同じ再雇用社員の賃金格差を不服として再雇用社員が起こした裁判で、「再雇用は年金までのつなぎの仕事」などの「その他の事情」で不合理ではないと判断した昨年6月の長澤運輸訴訟の最高裁判決は、そのわかりやすい例だ。

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