アレルギーについてわかってきた「常識を覆す意外な事実」

これは、新しい時代の大きなテーマだ
尾崎 彰一 プロフィール

⼤⼈になると消えてしまう「胸腺」という臓器の秘密

免疫細胞には「胸腺」という臓器が関わっている。胸腺は、⼼臓の真上にある⼩さな臓器で、⼀般の⼈にとってはあまり馴染みのない臓器だと思うが、その役割はとても重要である。

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⾻髄で作られた幹細胞は、胸腺に集められ、免疫細胞であるT細胞になる(Tは胸腺(thymus)の頭⽂字)。

T細胞は、⼤きく「キラーT細胞」と「ヘルパーT細胞」の2種類に分けられる。キラーT細胞はウイルスやがん細胞などを排除する細胞で、⼀⽅、ヘルパーT細胞は免疫の働きを制御する司令塔のような役割を果たしている。

胸腺では、何百万もの物質に対して安全か危険かを⾒分けられるよう、T細胞に対して何段階にも「教育」がなされる。そして、⾃⼰の細胞を破壊してしまうなどの精度が悪いものは、胸腺の中ですぐに処分される。

 

その結果、⽣き残れるのは全体のわずか5%程度で、狭き⾨をくぐり抜けた少数精鋭のT細胞だけが、血液に入り全身を巡って実践へと向かうことになるのだ。

胸腺は、⼈間の場合10歳頃にサイズが最も⼤きくなるが、思春期(12歳から17歳ごろ)を過ぎるとどんどん⼩さくなり、30歳前後には役⽬を終え、脂肪組織となり、臓器としては⾒えないくらいに退化してしまう。

⾷物アレルギーの改善が⾒込めるのは、年齢が低い⽅が良いとされるのは、このためである。胸腺の活動が活発な時期は、免疫系が柔軟に学習し、免疫反応が調整される可能性がある。⽣まれてから⼩・中学⽣頃までの成⻑段階は、⾝体の免疫系の発達に⾮常に重要な時期であることがわかる。

ちなみに漆職⼈は⼦供の頃から、漆をごく少量ずつ舐めることで、将来肌に触れてもかぶれなくなるという。これは経⼝寛容の性質と、免疫の学習能力の高い時期をうまく利⽤した昔ながらの方法だと⾔える。

⼀般的な認識では、乳幼児にアレルゲンとなる物質を含む⾷品を積極的に⾷べさせるということはないだろう。すでに体内でアレルギー反応が出ている場合には、その⾷物でアレルギー症状を起こすため、家庭でこの⽅法を試すのは⾮常に危険であり注意してほしい。

ただしその一方で、子供が大きくなるまで、アレルゲンとなる食物を与えることを徹底して避け続けることが、もしかするとアレルギーを引き起こす可能性がある……という事実を知っておいてほしい。

この前提を確認いただいた上で、あくまでも一つの参考として掲示するが、こうした性質を利用した治療法として、経口免疫療法(Oral Immunotherapy, OIT)というものが存在する。

日本小児アレルギー学会による「食物アレルギー診療ガイドライン2016」によれば、経口免疫療法とは、「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して、事前の食物経口負荷試験で症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで経口摂取させ、閾値上昇または脱感作状態とした上で、究極的には耐性獲得を目指す治療法」をいう。

つまり、すでにアレルギー反応が出てしまっている場合の治療法として、アレルゲンをアレルギー反応が出ない程度の少量ずつ経口摂取させることで、アレルギー反応が出ない量を増やすという治療方法があるということだ。食物アレルギーではないが、スギ花粉症を治療するための舌下免疫療法もこれとよく似たアプローチの方法だと言える。

ただし経口免疫療法は、予期せずアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があるなど、複数のリスクから、ガイドラインでは、経口免疫療法を食物アレルギーの一般診療として推奨しないとしていることも付け加えておく。

http://www.jspaci.jp/allergy_2016/chap09.htmlなどを参照のこと)

過去には、神奈川県⽴こども医療センターで、経口免疫療法の療法中に重篤な事象が発⽣しており、⽇本⼩児アレルギー学会から「経⼝免疫療法に対する注意喚起」も出されている。一部の症例には効果があるが、免疫反応に対する治療の難しさが実態としてあることは必ず認識しておかなければならない(安直に行ってはいけない、ということで、専門医の指導相談は必須)。