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日本一地価が高い銀座「1坪1.9億円」の地主たちが見る夢

不動産の歴史を紐解く

人間が持ちうる最大の資産のひとつ、「不動産」。その歴史を紐解くと、様々な人間ドラマや街の歴史が透けて見える。毎週、都内のある土地に注目する新連載、初回は独特の魔力を放つ街、銀座から。

ハガキ1枚分で85万円

「銀座」という言葉を聞いたとき、あなたは何を思い出すだろうか。

取引先や上司に高級クラブに連れて行ってもらい、「オレも銀座で飲めるようになったか」と誇らしく思ったこと。妻や娘のために、奮発して銀座でプレゼントを買ったこと。田舎から出てきた両親に、銀座で鮨をご馳走してあげたこと……。

人によって思い出は様々だろうが、ひとつ共通するのは、何をするにも銀座は「特別な場所」であることだ。そして特別な場所であるがゆえ、東京の中でも銀座の地価は飛び抜けて高い。地元の不動産仲介業者は言う。

「取引価格が公表されることはめったにありませんが、銀座で売買される土地の価格は青天井。

ビルを買ってテナントに貸し出しても、購入価格が高過ぎるのでほとんど儲けは出ない。にもかかわらず買い手が現れるのは、銀座という土地に『魔力』があるからです」

 

その「魔力」の正体とは何か。平成最後の春を迎えた銀座を歩いた。

まずは銀座通り口交差点から、銀座通り(中央通り)を南下すると、ほどなく銀座二丁目の街並みが見えてくる。

この二丁目の東側一帯は、慶長17(1612)年に徳川秀忠が実施した2回目の「天下普請」の際、銀を鋳造・検査する「銀座」が駿府から移転してきた場所。

銀座という地名の由来となった地域だが、現在ここには「ルイ・ヴィトン」「ブルガリ」といった外国ブランドがひしめく。

そのひとつ「ティファニー銀座ビル」は、'13年にソフトバンクグループ総帥の孫正義氏が個人で買い取ったことで話題となった。当時の報道によれば、買い取り額は実に320億円。

総資産2兆6670億円(『フォーブス』誌の推計、'13年3月時点)を誇る孫氏にとっては、それほど大きな買い物ではないのかもしれない。だが、前出の不動産仲介業者は、この取引に疑問を持ったという。

「買収金額から計算すると、ティファニー銀座ビルの期待利回りはおよそ2.6%。当時の不動産投資信託(REIT)の期待利回り4%に比べると、ずいぶん低い。

利にさとい孫氏がなぜこんなに儲からないビルを買ったのかと、多くの不動産関係者が首を捻ったのです」

投資が目的でないとすれば、孫氏はなぜこのビルを買ったのか。その真の狙いは後述するとして、もう少し歩いてみよう。

外国ブランド密集地帯から1ブロック南に進むと、銀座四丁目に入る。

西側にはキリスト教関連書が充実した「教文館」、貴金属「ミキモト」の本店、今日も根強い人気を誇る「木村屋總本店」など、明治期に創業した有名店が軒を連ねている。

その並びの中ほどにあるのが「山野楽器」だ。

明治25(1892)年に築地で創業、明治37(1904)年に販売部を現在の地に設置して以来、銀座で100年以上も商いを続けてきた同社は、一方で「公示地価」が日本一高い場所としても知られている。

この公示地価とは、土地の売買価格の目安で、固定資産税の計算にも用いられる。毎年3月に国交省が発表し、'19年の山野楽器の公示地価は過去最高の1平方メートルあたり5720万円。1坪換算では約1.9億円、ハガキ1枚の大きさで約85万円というから驚きだ。

銀座の中でも特に注目される場所のひとつと言えるが、それゆえにこんな悩みがあるという。

「地価が高いうえに楽器店ということで、入りづらいと感じられるお客様もいらっしゃるようです。

当店ではギターピックのような100円単位の小物も販売しているのですが、『土地が高い場所なのに、安い物を売っていて大丈夫なの?』と、お客様に心配されることもあります。多くの方に気軽に入っていただけると良いのですが」(山野楽器広報担当者)