残り野菜が次々ご御馳走になる

パリのスーパーの冷蔵コーナーに、プラスチック容器入りサラダ類が売られるようになった。かといって、ほかにめぼしいお惣菜があるわけではない。もともとフランスにはシャルキュトリーと呼ばれる、家庭では作れないハムや腸詰類などの豚肉加工品ばかりをあつかう専門店がある。だが、お袋の味を代表するお惣菜はどこにも売られていない。ついでにいうと、私たちが思い浮かべるお袋の味のことをフランスではキュイジーヌ・グラン・メール。キュイジーヌはクッキング、グラン・メールはおばあちゃんだから、つまりおばあちゃんの味という。

パリにもいくつかの有名デパートがある。各国からの観光客に受けそうな、贈答用のかわいい缶入りのビスケットやフォアグラ、紅茶、缶詰などを売るエピスリーという高級食品コーナーが人気とはいえ、わんさの人で盛り上がるデパ地下のお惣菜コーナーの存在自体がないのである。

それではだれが、プラスチック容器入りのできあいサラダを買うのか。夕方それを買うのは、一人暮らしの、栄養のバランスに敏感な女性たちに限られる。

家に帰れば家族がいる主婦たちは、プラスチック容器入りのサラダには手を出さない。持ち帰ってそのまま食べられるできあいのサラダの値段が、あまりにも高すぎるからだ。フランス人の経済観念からすれば、それだけのお金を出してまで買う価値がないのである。

家族全員分のサラダをパックで買うより、野菜をそれぞれ買ってオリーブオイルとレモン、塩コショウで味付け。それでぐっと安く美味しい一品になる Photo by iStock

プラスチック容器入りサラダ一つを買う金額で、レタスと数個のトマト、キュウリが買える。それだけの野菜を買えば、なん食分ものサラダができる。残ったクズ野菜が、美味しいポタージュにもなるからだ。

そもそもフランスには、2000年より前まで市販のサラダ・ドレッシングがなかった。最近でこそスーパーの陳列棚のすみにわずかばかり並んでいるが、どれも不評。

泳いでも渡れるドーバー海峡をこえただけで、英仏の食文化はかなりちがい、早い時期からイギリスには既製のドレッシングがあった。パリに住んでいたころ私は、イギリスにいくたびにロンドンの食品売り場で、なん種類ものドレッシングを買ってきては試したものである。残念ながら、美味しい市販のドレッシングにはお目にかからなかった。

キッチンにあるオイルと、ワイン・ヴィネガーに塩と胡椒を入れただけの、素朴なドレッシングのほうがずっと美味しかった。マスタードを加えれば、温野菜、魚や肉にも通用する、抜群に美味しいソースになる。東京に帰ってきてからもわが家の冷蔵庫に、既製のドレッシングが入っていたことはない。