出生前診断というと、35歳以上の女性が選択して受ける新型出生前診断や羊水検査などを思う人が多いかもしれない。しかし進歩が著しいいまの医学では、通常の診察で出生前に胎児の先天性疾患の可能性を察知するケースが増えている。つまり、出生前診断は実はすべての妊婦に深く関わっているのだ。

ジャーナリストの河合蘭さんは、著書『出生前診断-出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』で「科学ジャーナリスト賞2016」を受賞している。長く出産の現場と医療の現場を取材し続けてきた河合さんは、医療の進歩とともに「母たちの選択肢」や「自分で決めること」がないがしろにされがちな現状も多く目にしてきた。そこで最新の現場から、様々な母たちの姿と、彼女たちに寄り添う医療従事者を紹介していく。

連載第1回は「心のケア」を専門とする産科の看護師のことをご紹介した。第2回は出生前診断によって障害の可能性を伝えられた一人の妊婦と、彼女を支えた育児サポートの女性をご紹介する。

妊娠12週で「ダウン症の可能性」と言われる

まだ風が冷たかった春の日、一般社団法人ドゥーラ協会認定「産後ドゥーラ」として活動する水戸川真由美さんの自宅訪問に同行させてもらった。 水戸川さんは、健常な子がいる母親だけではなく、障害がある赤ちゃんを授かった母親の育児・家事も支援している。

この日お訪ねした青木理恵さん(38歳)は、お誕生から6ヵ月になるひかりちゃんを膝に抱いていた(ともに仮名)。

青木さんが、ひかりちゃんは「ダウン症である可能性が高い」と知らされたのは、青葉の茂る季節となり、妊娠12週を迎えたころだった。

きっかけは、妊婦健診の時にもらった、たった一枚の説明シートだった。時間をかけて赤ちゃんの全身をよく調べる超音波検査ということで、何かが見つかったら、それに対応できる最適な病院を選べるのがメリットだと書いてある。調べる病気にはダウン症も含まれると書いてあった。これは、欧米で「ファースト・トライメスター」と呼ばれ最も普及している出生前診断で、日本でも、少しずつ増えている。

ただ、赤ちゃんの病気と言われても全く実感がなかった青木さんは、単に「赤ちゃんをたっぷり見たい」と思い、実母にもすすめられたので検査を受けた。

医師が首の部分を見ようしたとき、ひかりちゃんは、なぜかなかなか首を見せようとしなかった。医師が「おーい」と声をかけながら何度か軽い刺激を与えると、画面の中でひかりちゃんがパタパタッと手足を動かしながら、まだ5~6センチしかないはずの小さな身体を回転させた。

「元気な子だね」

そう言いながら、医師はひかりちゃんの首を見始めた。その首には、「NT(Nuchal Translucency後頚部浮腫)」と呼ばれる、ダウン症がある確率を調べる一番重要なポイントがあると青木さんが知ったのは、検査後のことだった。

ひかりちゃんには7ミリのNTができていて、医師は青木さんの年齢と掛けて算出すると、ダウン症の確率が7分の1あると言った。青木さんは頭が真っ白になったが、医師ははっきりしたことを知るには羊水検査が必要だと言っているようだった。それから「赤ちゃんをあきらめる場合は……」という言葉が聞こえてくると涙が堰を切ってあふれた。そのあとの事はほとんど記憶がない。

実母から出産を反対される

「実母は、すぐに、『その子を産むのは反対』だと言いました」

以来、実母は「家族みんなが不幸になる」「あなただけの問題ではない」「子どもも生まれてくる方がかわいそうだ」などと繰り返し言ってきた。父親も反対だった。夫は仕事で障害を持つ人たちに触れる機会があり「大丈夫じゃないか」と言っていたが、多忙で、ほとんど家にいない。

ダウン症があったとしても産みたい気持ちが強かった青木さんは、生まれてからこの方、こんなに泣き続けたことはないというほどほど泣き暮らした。ただ、その中でひとつの強い疑問が頭をもたげてきた。

「みんな、漠然とした印象でものを言っているような気がしてきたのです。障害者が生まれたら人生が狂うと言っている人は、実はたいして知りもしないでそう言っているかもしれない。私は、だんだん、ひとつの命を産むか、産まないかということを判断しようとしているのに、こんなにふわっとした話でいいのかという憤りを感じるようになりました」