「井上尚弥は全く別の生き物」敗れた外国人ボクサーが語る怪物の実像

怪物に敗れた男たち③
森合 正範 プロフィール

「イノウエ、パンチ、ツヨイ…」

ゴングが鳴った。両者が軽くグローブタッチをする。井上にとって1年ぶりとなる試合。少し様子を見るのかと思いきや、すぐに動き出す。開始12秒。ボディーへの左から右ストレート、左のアッパー2連発が飛んできた。威嚇するような素早いコンビネーション。速い。観客から感嘆のため息が漏れ、会場の視線が釘付けになる。ガードで防いだパレナスは大きく首を振った。

「井上のパンチはとてもとても速かった。それと重い重いパンチだった。これまでのボクサーとは明らかに違う。初めての経験だね。でも、首を振って、見ている人たちに『効いてないよ』と伝えたかったんだ。実際にダメージはなかったからね」

セコンドの阪東の見方は少し違った。首を振った瞬間、「心が折れちゃったかな」と察知した。

「ウォズは思っていたより(井上の)スピードが速い、パンチが強いと認識しちゃったんです。あれで体が固まっちゃった」

開始からわずか12秒。パレナスは井上尚弥というモンスターを体感した。異次元のスピードとパンチの強さ。当初の作戦は体を振りながら、プレスをかける。井上を下がらせて、得意の右を放つ。だが、気持ちがついてこない。弱気が顔をのぞかせ、動きが硬くなり、実行できなくなってしまう。

1分半すぎ。左フックから右、またも左アッパー2発のコンビネーションをもらう。ガードの堅いパレナスは再び首を振って、にやりと笑った。

「やっぱりお客さんに大丈夫だとみせたかったんだ。だけど、実際は少しフラフラした。頭がクラクラする、とても強いパンチだった」

 

カウンターを狙っても、相手は速すぎて、もうその場所にはいなかったという。井上に翻弄され、第1ラウンドが終わった。

コーナーに戻ってきたパレナスに阪東がアドバイスを送る。「動きが硬い。もっと体を動かそう。体を振りながらプレスをかけていこう。ウォズ、おまえの攻撃は間違いなく強いんだ」。すると、パレナスが日本語でぽつりと言った。

「イノウエ、パンチ、ツヨイ…」

第2ラウンド。パレナスも前へ出る。しかし、40秒すぎ、離れ際の左フックを顔面に食らった。「あのパンチはグレートだった。ダメージがあった」。その後ロープに詰められ、連打を浴びる。一瞬、「離れたかな」と思ったと同時に、左、右、左、右と飛んできた。両腕のガードの上から浴びたパンチ。だが、体ごと吹き飛ばされた。軽量級とは思えない、鮮烈のダウンシーン。パレナスは信じられなかった。

「アマチュアから何百試合とやってきたけど、あんなの初めて。ガードをしているのに……。他のボクサーとナオヤ・イノウエはまったく違う生きものなのか。天から与えられた才能があるのか、と思ったね」

間近で見ていた阪東は井上のパンチをこう分析した。

「しっかり足を蹴ったそのエネルギーが拳の先まで伝わる。それを繰り返していて、そのスピードが速い。しかも打つときに、最後しっかり拳を握っているので、強いパンチになる。速いだけならガードで弾けるんだけど……。あれは硬くて強いパンチだと思う」