日本国内でも屈指の原生自然が残る奄美大島。中でも淡水と海水が入り混じる汽水域に生育する天然のマングローブ林は、沖縄と種子島、奄美大島でしか見られません。豊かな海と森が育む手付かずの自然の懐へ、あるときはカヤックで、あるいは自分の足で、デザイナーの森美穂子さんと一緒にゆったりと、軽やかに旅をしました。
マングローブの原生林へ漕ぎ出す
川と同じ目線になって、わかること。
奄美滞在2日目はマングローブの原生林をカヤックでめぐることにした。水嫌いの森さんでも転覆の危険性が限りなく低いカヤックなら大丈夫だろう。何よりカヤックなら、川にもマングローブにも手を伸ばせば届くほどの距離まで近づける。人と自然との距離を縮めるには最高の乗り物なのだ。
案内役を務めてくれたのは地元でアウトドアショップ〈GUNACRIB〉を営む島崎仁志さん。店を営む傍ら、自身のブランド〈devadurga〉も展開している。島にガイドは大勢いるが、彼を指名したのはほかでもない森さん。東京の山仲間から、「奄美で一番ユルいガイド」として紹介してもらったのだとか。「ガイドさんと一緒だと勉強になることもたくさんあるんですけど、説明を聞くのに必死になってしまって。だからユルい方がいいなと(笑)」
島崎さんは見た目からしてユルい、もとい、柔和な人。もじゃもじゃと顔を覆う鬚はまさに奄美人だ。「漕ぎ方のコツですか? それはもう漕ぎながら掴むしかないっす!」
カヤック体験ができる〈マングローブ茶屋〉で受け付けを済ませると、島崎さんは基本的な注意を手短に説明するだけでカヤックに乗り込む。
「本当にユルい!」と森さんは爆笑。緊張が一気に和らぐ。島崎さんは独特の軽やかさで人を自然の中へいざなう人だ。マングローブの原生林が残る役勝川のすぐ先は海で、川の水は舐めてみると塩辛い。マングローブはこうした海水と淡水が入り混じる汽水域にしか育たない。ちなみにマングローブというのは固有の植物名ではなく、そうした環境に生育している植物の総称である。