旅好きセレクターによる、旅へと誘う本をご紹介! 今回は、文筆家の木村衣有子さんに選書してもらいました。
 

旅の空、
買いたくなるのはどんな本。

まあ、割れることはないにしても、かさばるし重いし、全くもう。つい、旅先で本を買いがちで、宿にて、リュックを開けて荷物を整理するとき、底面に何冊かを敷きながら、ぼやく。とはいえ、翌日はまた別の本を求めている。いつもの生活圏にある本屋には並んでいないものはもちろん、あるいはそこの棚ではひっそり息を潜めていても、よその街の本屋だと平台に積まれて輝いている、そんな本を見つけると、やっぱり。
 

ワインの授業 フランス編
杉山明日香 著/イースト・プレス(2015)
ワインの基本はフランスにあり。地域別に、その土地特有のワインの成り立ち、位置付け、傾向を分析した、頼り甲斐のある参考書。

『ワインの授業 フランス編』は、移転前の、熊本「橙書店」で買った。ワインについて知りたいという機運が胸中で定期的に高まる私。最初に読んだときは正直言ってちんぷんかんぷんだったが、その後も幾度かのワインブームが胸の内で沸き起こっているため、徐々に知識は増えている。読み返す度に、ああ、こないだよりワインが少し分かるようになったな、と、なにやら誇らしい気持ちになる。
 

『谷崎潤一郎随筆集』
谷崎潤一郎 著・篠田一士 編/岩波文庫(1985)
濃厚で読み応えのある作品揃い。「私の見た大阪及び大阪人」にある文楽論が興味深い。教科書でお馴染みの「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」も収録。

昨夏、大阪では『谷崎潤一郎随筆集』を。芦屋の谷崎潤一郎記念館に行ったとき売店でぱらぱら捲ったものの、その場はそのまま立ち去ってしまい、しかし、やっぱり買えばよかった、と、悔やんだところで入った「blackbirdbooks」で、同行者が見つけてくれた。
 

愛と人生
滝口悠生 著/講談社文庫(2018)
表題作「愛と人生」は、『男はつらいよ』を大胆に再構成した「寅さん小説」。旅情というものの豊かさと酷薄さがきっちり描かれている。

今年、正月明けに、福島は郡山駅にある「くまざわ書店」で買ったのは、文庫化されたばかりだった小説『愛と人生』。表題作は、電車に揺られながら読むとどきどきするくらい、溺れてしまいそうな旅情に溢れていた。
 

PROFILE

木村衣有子 Yuko Kimura
文筆家。1975年栃木県生まれ。『はじまりのコップ 左藤吹きガラス工房奮闘記』『キムラ食堂のメニュー』など著書多数。

●情報は、2019年5月現在のものです。
Photo:Toru Oshima Edit:Yuka Uchida