故・小出義雄監督が「結果で選手を叱らなかった」理由

「僕の指導の結果でもあるから」

高橋尚子さんの場合

「褒めて育てる」をモットーに1992年バルセロナ五輪銀、96年アトランタ五輪銅の有森裕子さん、97年世界選手権アテネ大会優勝の鈴木博美さん、2000年シドニー五輪金の高橋尚子さん、03年世界選手権パリ大会3位の千葉真子さんら、世界的な女子マラソンランナーを次々に世に送り出した平成を代表する陸上指導者である小出義雄さんが、さる4月24日、肺炎のため80歳で亡くなりました。

褒めて育てる――。高橋さんを例にとりましょう。これは高橋さんがリクルートランニングクラブに入った頃の話です。

高橋さんについて訊ねると、小出さんはこう言いました。

「あの子の場合はね、今でもちょっと残ってるんですが、左腕の振りが小さく、右腕を大きく横に振って走るクセがあるんです」

当時、確かに、高橋さんは右腕を“女の子走り”のように振って走るクセがありました。

再び小出さんです。

「彼女は中学から高校、大学と、ずっとそれを直せと言われてきた。それを直さないと速くなれないって。でも僕は『いい腕の振りだ』って褒めたんです。いままでそんなこと言われたことなかったから、本人はキョトンとしていましたけど。でも、それは決して嘘を言っているわけじゃない。少なくとも、振りが小さいということは、速く動かくことができるということで、効率的なんですから」

 

腕を振れ。足を前に出せ。ヒジを上げろ。当時はこうした指導が一般的でした。

しかし、「長所が伸びれば短所は消える」が持論の小出さんは、高橋さんの独特のフォームを否定するのではなく、褒めることで、本人に自信を持たせたのです。

「僕はね、レースの結果が悪くて選手を叱ったことは一度もないんですよ」

実際にその通りでした。

「だって、考えてみてくださいよ。レースの結果は、僕の指導の結果でもあるんです。選手は僕の指導で走っているんですから。その走りを否定することは、自分の指導法は間違っているって公言しているようなものだと思うんですよ。みんなよくそんなことできるよなって」

そして、こう続けました。

「ひとりとして同じ筋肉のつき方をした人間はいない。練習方法や走るフォームだってそれぞれにあったものがあるはずなんです。だから僕は、皆に同じ指示を与えることはない」

陸上に限らず、女子選手への指導と言えば上意下達が当たり前だった時代、小出さんは選手一人一人の才能のかたちを大切にした指導者だったと言えるでしょう。まごうかたなき“平成の名伯楽”でした。