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「小岩井のミルク」が創業後128年間もおいしいと言われ続けるワケ

「小岩井乳業」村松道男社長に聞く
夏目 幸明 プロフィール

「裸の王様」にならないために

スポーツが好きで長くサッカーをプレーしていました。今は中学生の娘が女子野球のクラブチームで頑張る姿を見ている時間が楽しいです。

実は野球のコーチもつとめたことがあるので、娘のプレーに口を出したくなることもあります。しかし私は「何も言わなくても伸びる状況」まで持ってきたら口を出さないほうがよいのでは? と思い、余計な口出しは慎んでいます。もしかしたらそれが、親や経営者の役目なのかもしれない、とも思います。

 

逆に悩ましいのは「裸の王様」にならないため、私自身は周囲にいろいろと教えてほしいのですが、社長になるとなかなか言ってもらえないことですね(笑)。

おすすめの商品は'84年に発売を開始した「小岩井 生乳100%ヨーグルト」です。発売当時、日本のプレーンヨーグルトはそのままでは酸味が強めで、砂糖や蜂蜜を加えて食べるのが一般的でした。しかし当社の先人は「砂糖を加えなくてもおいしいものができるはず」と欧州に向かい、フランスで牛乳の甘みを引き立てる製法を会得してきたのです。

容器に詰める前に長時間発酵させるなど製造の手間はかかりますが、酸味が少なく、食感はクリーミーになります。興味深いのは、ロングセラーなのにここ5年で売り上げが倍増していること。いいものをつくり続ければ、いつか認められる時代がくるのです。

我々は現代の技術を活用したチャレンジもしています。たとえば、生乳だけでつくった脂肪分ゼロのヨーグルトが今春新登場しました。乳脂肪分を除くと味が薄くなるので、脱脂した牛乳を濃縮し、他の当社製品とは別の菌で発酵させ、なめらかでクリーミーな食感を実現しています。

さらには「iMUSE(イミューズ)」。キリンホールディングス、小岩井乳業、協和発酵バイオがグループの総力を結集して研究を重ねた「プラズマ乳酸菌」が入ったヨーグルトです。この乳酸菌は世界で初めて免疫機能の司令塔の一つ「プラズマサイトイド樹状細胞」を直接活性化することが確認されていて、細菌やウイルス感染の防御に貢献します。

進化を取り入れる部分は貪欲に取り入れ、そして変えてはいけない部分は頑固に変えない。そんな経営を続け、私は先人が築いたロマンの襷を次世代に繋いでいきたいと思っています。

村松 道男(むらまつ・みちお)
'65年、東京都生まれ。'88年に一橋大学法学部を卒業し、キリンビールへ入社。神戸支社、名古屋支社で長く営業、販売推進等をつとめ、'11年にキリンホールディングス人事総務部人事担当主査、'13年にグループ人事総務部主幹に。その後、'16年に小岩井乳業の代表取締役社長に就任し、以来現職

『週刊現代』2019年5月11・18日号より