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「小岩井のミルク」が創業後128年間もおいしいと言われ続けるワケ

「小岩井乳業」村松道男社長に聞く

1891年創業の老舗「小岩井農場」をルーツとする小岩井乳業を取材した。「小岩井」は地名でなく、創始者である日本鉄道副社長・小野義眞、三菱社長・岩崎彌之助、鉄道庁長官・井上勝の頭文字。現在も三菱系のキリンホールディングスに属し、バター、ヨーグルト、チーズなどの乳製品を製造・販売する。率いるのはキリンビール出身で、温かい人柄で知られる村松道男社長(53歳)だ。

農場のスピリッツ

実は現在、小岩井農場がある場所は不毛の大地だったんです。

明治期、全国に鉄道を敷設するにあたって、鉄道庁長官の井上勝が岩手山南麓を訪れました。当時は国を挙げて殖産興業に取り組んでいた時期。彼は火山灰土に覆われた広大な土地に立ち「ここを開墾して欧州の農法を導入した本格的な農場を建設しよう」と考えます。

その後、先人たちは土壌改良、湿地からの排水に取り組み、防風・防雪林をつくり、さらには欧州から乳用牛を輸入して繁殖を行い、優秀な種牛を国内に広めていきました。私はこの農場を訪れ緑溢れる光景を目にするたび、今も目の前に先人の夢が息づいていると感じます。

 

当社の価値は農場をルーツに持つことから醸成された「ものづくりへのこだわり」でしょう。たとえば主力製品の醗酵バターは、明治期に、欧州で最もおいしい製法を研究したものです。

乳脂肪分を一度発酵させてから、製品化しています。手間はかかりますが、今もこの製法は変えていません。さらにはチーズ。醗酵バターを適度に練り込んでおり、一口味わえば濃厚さを感じ取っていただけるはずです。私はこの「農場のスピリッツ」や「農場のロマン」を繋いでいくことが我々とお客様との約束なのだ、と思っています。

学生時代の卒業旅行で牧場を訪ねた。「当時、自分が乳業に関わるとは思っていなかった」とか。写真中央が村松氏

キリンビールで営業や人事を担当し、'16年に当社の舵取りを任されました。着任して感激したのは、従業員たちの思いの強さです。

たとえば製造の効率化は当社の重要な経営課題です。牛乳は鮮度が命なので輸入ができず、すべて国内生産となるため価格が高くなります。したがって当社は構造的に薄利なのです。ところが、従業員は効率化についての提案でも、味を犠牲にするようなアイデアはまったく議題にもあげません。

その思いの源は、当社の従業員が全員、農場を訪れ、歴史を学んでいることにあると思います。日々忙殺されると、意外と自社や取引先の歴史を知らずにいるもの。しかし時代を超えて大切にすべき価値は歴史の中にあり、当社の農場はそれを無言で従業員に伝えているのだと思います。