「天皇とは何か」と聞かれたら、私たちがうまく説明できない理由

あなたを駆動する「物語」について12
赤坂 真理 プロフィール

英語で憲法を読んでみたら…

今から語ることの衝撃を、どうしても、脈絡の中に位置づけることができない。

このようなことを考えていたあるとき、2019年3月のあるときだったが、ふと、こんなことを思った。

「もう一度、英語で読み返してみよう」

わたしたちが見て「日本国憲法」と思っているものは、「日本語翻訳版」と言ったほうがむしろ正しいのではないか。占領時のGHQ草案は、ほとんどそのまま残って、世界には英語として流通している。だとしたら、原文と翻訳の間に解釈のちがいなどがあれば、国内認識と世界認識が、くいちがうことになる。英文をちゃんと見る必要があった。

 

The Emperor shall be the symbol of the state

最初の一文を見た。

たったの一文だった。

簡単な一文だった。

主語と動詞は、ひとつずつしかない。

そのとき、なぜだろう、今まで思ったことのないことを思った。

誰も言わなかったことを思った。

あれ? shall って、なんだっけ?

わたしの中では無意識に、この英文は、こうなっていたのである。

The Emperor IS the symbol of the state.

「天皇は日本国の象徴であり」という日本語を英語に直訳するなら、多くの人の頭の中で、そうなる。

天皇は存在する。
自然に、存在する。
肉体があり、天皇は、存在する。

が、is(be動詞)ではない。

ここまで考えてきたことのすべてを覆すほどの力が、shallというたったひとつの助動詞にあった。

わたしは、いわば、この助動詞を、無きものに扱ってきたのだった。

The Emperor shall be the symbol of the state

このときの衝撃を、どうしても、脈絡の中で書くことができない。一瞬にして、理解の飛躍が起こった。

そこには、曖昧で不可思議なことが書かれているのではなかった。

きわめて明快な、論理的なほどに明確な、書き手の意志が書かれていた。

天皇は、日本国の象徴で『あるべき』である

こう書き手の意志を読み込んだとき、これがわざわざ、大日本帝国憲法と同じ構成の第一項第一条に置かれているわけが、よくわかった。

これは、

大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス

の、正確な無効化条項であり、だからこそ、同じ場所に置かれている。

憲法を論じる人はよく、9条を問題とする。9条こそが日本国憲法の真髄であり象徴であると。

でもわたしが思うに、9条は、おまけだ。国体を徹底的に無力化して、どさくさに紛れ込ませた感じがする。

shallにつきまとうのは、宿命や運命の香りである。

そう運命づけられた存在であること。

だったら、天皇とは、象徴であると運命づけられた人、ということになる。

誰に?

アメリカにである。