乙武義足プロジェクト―先天性四肢欠損で生まれた乙武洋匡氏が、テクノロジーの最先端を行くロボット義足を装着し、2本の足で歩こうとしているのをご存知だろうか。エンジニア、研究者、デザイナー、義肢装具士、理学療法士といった多くのプロフェッショナルたちがサポートし、乙武氏の歩行技術獲得の道を伴走している。

このプロジェクトを立ち上げたエンジニアの遠藤謙氏は、足を失ったバスケ部の後輩やインドの少女との出会いを経て、ロボット義足の開発に情熱を燃やし続けている。米マサチューセッツ工科大学留学時代の恩師の言葉、「障害者は存在しない。ただ身体的障害を克服するテクノロジーが不足しているだけだ」が座右の銘だ。

遠藤氏と乙武氏との出会いは2016年3月に遡る。その直後スキャンダルでスケジュールが一切空白となった乙武氏は、一時期日本を離れ、海外37ヵ国をめぐる旅に出た。旅先に届いた1通のメールが、プロジェクトの始まりだった

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眼鏡のように義足が当たり前になったら

7年の歳月を経て日本に戻ってきた遠藤氏は、2014年5月「TEDx Tokyo」という成果発表の場に立った。「TEDx」は広める価値のあるアイディアを共有するために世界各地で生まれているコミュニティーで、「TEDx Tokyo」はアメリカ以外では最初の「TEDx」として、2009年以来毎年開催されている。

TEDxでの遠藤氏 写真提供/遠藤謙

遠藤氏のスピーチのタイトルは「足の再定義」。義足研究の成果と方向性を思う存分に語り、話が終盤にさしかかったとき、遠藤氏は「私の友人を紹介したいと思います」と言いながら後ろを振り返った。

壇上に吉川さんが現れた。最新バージョンのロボット義足を履き、満面の笑顔でスタスタとやってくる。遠藤氏と吉川さんがうれしそうにハイタッチをすると、客席からうねりのような拍手の音が押し寄せてきた。

遠藤氏はスピーチの最後をこんな言葉で結んだ。

「(この義足は)まだプロトタイプ(試作品)に過ぎません。テクノロジーを使って、足りない余白をワクワクで埋めることのできるエンジニアになりたいです。みなさんの助けになりたいと考えています」

遠藤氏は、その後も新しい挑戦を続けている。ロボット義足のセンサーやモーターはどんどん小型化し、デザイン性も高まった。東京パラリンピックに向けた競技用板バネ義足の制作も最終段階に突入している。

「視力が弱い人の補助具として出発した眼鏡は、いまではそのことを忘れてしまうほどおしゃれになり、世の中に完全に定着しています。補装具である義足も、眼鏡と同じように街で見かけることが当たり前になる世の中を目指したい。そして、東京パラリンピックはそのきっかけになるはずです」

「東京パラリンピックでなんらかのメッセージを受け取った人たちから、新時代のフロントランナーがでてきてくれればうれしいですね。テクノロジーには社会変革の触媒となる力が潜んでいる、僕はそう信じています」

そう語る遠藤氏の言葉からは、エンジニアの責任と誇りが強く感じられる。

学校の後輩でもある吉川和博さん(写真左)の存在は遠藤氏が本格的に義足の開発に携わる大きなきっかけとなった 写真提供/遠藤謙