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数学と日常が交差する「博士の愛する世界」の見方

『数学の贈り物』森田真生に聞く

数学の「違う一面」が見える

―'15年に出版された森田真生さん初の単著『数学する身体』は小林秀雄賞を受賞。「数学が身近に感じられるようになった」と各所で絶賛されました。

本書『数学の贈り物』は、初めての子育てや各地で行っている数学のトークライブなど、日常の実体験から考えたことが、古今東西の歴史的人物や数学の考え方を交えながら綴られるエッセイ集。登場人物は数学者や哲学者に限らず、実に多彩ですね。

普段なら共演しない人が並ぶのが、この本の面白さだと思うんです。

敬愛する数学者・岡潔はもちろん、ソクラテスやプラトンといった古代ギリシアの哲学者たち、孟子や荘子といった古代中国の思想家、はたまたバスケの神様マイケル・ジョーダン……一見とりとめがないですけれど、僕が影響を受けた約40人に登場してもらいました。

 

―森田さんは東京大学に入学後、ITベンチャーで働くなかで数学の面白さに目覚めます。そこで工学部卒業後、理学部に入学。卒業後は、在野の研究者になっています。

僕自身は「独立研究者」と名乗っています。現代の大学制度の枠組みがドイツで生まれたのは約200年前ですが、組織に属した研究者という生き方もこうした制度のなかで確立されていきます。

でも僕は、もう少し素朴なところから出発したい。「このとてつもなく不思議な世界で、いかによりよく生きるか」。これが僕の「研究」の課題です。そのために自分の足で立ち、思考し続けていくこと。その意味で、独立研究者とあえて名乗っています。

―学生時代に、数学に苦手意識を抱く人は少なくありません。ですが本書を読むと、とかく嫌われがちな数学の、また違った一面が見えてきます。

「分数の割り算から意味がわからなくなった」「負の掛け算が理解できない」など数学に挫折した経験を持つ方は多くいらっしゃいます。

ですが、たとえば赤ん坊におしゃぶりを渡す時、おしゃぶりの意味を説明してから手渡す親はいません。子供は意味もわからず触ったり、咥えてみたりするなかで、次第におしゃぶりの意味を体得していきます。

同様に、数学を学ぶ時も最初に意味を求める必要はないと思うんです。「-1に-1をかける」の意味が理解できずとも、計算のルールを学べば、計算ができる。そして、計算ができれば、意味は後からついてくるんです。

たしかに算数も初めのうちは、りんごの個数を数えるなど、日常のありふれたものを記述し、説明するために用いられます。ですが数学は、まだこの世に存在しない、新しい意味や価値を生み出すこともできる。だから、意味がわからなくても、まずは手を動かしてみることが大切なんです。