# 離婚

離婚した夫が「一緒の墓に入れてくれ」…そして家族の悲劇が始まった

死んでも死にきれない
露木 幸彦 プロフィール

相続放棄を迫る

一方の姉は認知症の症状が進んでおり、判断能力が低下しており、日常生活にも支障が出ていました。そのため、正則さんは昨年、家庭裁判所へ後見開始の申立を行い、正則さんが姉の成年後見人に指定されたそうです。そのため、正則さんは姉に代わって義兄の家族へ逝去の連絡をしたのですが……。数日後、戸籍上の妻と長女が正則さんの自宅に乗り込んできたのです。

「生前は主人がお世話になりました。主人の最後を看取れなかったのは『あの人のせい』ですが」

 

そんなふうに長女は恨み節をぶつけてきたのですが、『あの人』は姉のことを指すのは言うまでもありません。正則さんは今さらながら姉のせいで向こうの家族は苦しんできたこと、夫や父がいなくなり、「普通の家族」でいられなくなったことを実感せざるを得なかったのです。

「あの人のことを今でも許していません。それなのに主人の遺産をあの人に渡すなんて納得いきません。どの面下げて生きているんだか!」

本妻は凄い剣幕で突っかかってきたのですが、正則さんは「すみません。姉が迷惑をかけまして」と頭を下げるので精一杯でした。そして本妻は正則さんに相続を放棄するよう迫ってきたのです。もちろん、正則さんは遺言の存在……姉にも3分の1の相続権があることを示しつつ、毅然とした態度をとり、本妻からの申し入れを断れば良かったのですが、「内縁の妻の弟」というにはあまりにも弱い立場です。少しでも言い訳をすれば「何様のつもり」とちゃぶ台をひっくり返されても仕方がありません。

そのため、本妻が用意してきた遺産分割協議書(姉の相続について記載されていないもの)に後見人として署名するしかなかったのです。そして本妻は「うちのものなんだから!」という感じで正則さんが預かってきた通帳や証書、証券を持っていってしまったのです。

「すみません。せっかく手伝ってもらったのに、こんなことになってしまって……」

後日、正則さんは電話口でそう釈明したのですが、姉が入居している施設は終身の一時金方式なので姉が入居している間、追加の費用は原則、発生しません。病院で支払う医療費は姉本人もしくは正則さん負担ですが、義兄の財産がなくても金銭的に困窮することはないでしょう。

義兄が何もせず、このような結末を迎えたのならともかく、最後の力を振り絞って遺言を残したのに生前の人間関係によって「(内縁の)妻が困らないように」という義兄の遺志が踏みにじられたのは残念ですし、「何のために遺言を作ったのだろう」という虚無感が残りました。