# 離婚

離婚した夫が「一緒の墓に入れてくれ」…そして家族の悲劇が始まった

死んでも死にきれない
露木 幸彦 プロフィール

内縁の妻

「父さんも母さんの墓に入れることにしました。生前は離婚のせいで、目に見えて衰えていくのが分かり、なんだか可哀そうな気がしていたんです…」

賢哉さんは苦しい胸のうちを吐露してくれましたが、遺言のうち遺産相続については(遺留分を超えない範囲なら。相続人が自主的に放棄しない限り)本人の希望通りになります。一方で「遺産相続以外の内容」には強制力がなく、じつは相続人が遺言の内容を守らなかったとしても特にペナルティはありません。父を無縁仏にするわけにはいかないという賢哉さんの気持ちも分かります。

しかし、先に亡くなった母はようやく父から解放され、自分の墓で眠っていたのに、後から父が墓に入ってきたのだから何のために離婚し、墓を用意し、遺言を残したのか分かりません。これでは離婚する前に逆戻りですが、必ずしも親族の全員が遺言に賛成とは限りません。親族のなかに反対者がいても感情に流されず、遺言に従うのが本人のためではないでしょうか。

 

次に紹介するのは、夫の遺言をめぐる「内縁の妻と本妻」のトラブルです。

「遺言を作りたいんですが、本人は施設に入居しています。それでも大丈夫ですか?」

そんなふうに依頼をしてきたのは阿部正則さん(68歳。仮名)。施設の一室にいたのは老男と老女で私の目には「夫婦」に映ったのですが、正則さんいわく老女は実姉(74歳)、老男(81歳)は義兄なのですが、30年前に義兄が駆け落ち同然で家庭を捨てて、姉と一緒になったそう。2人は30年間、夫婦同然の生活を送り、そして3年前には自宅の売却金を元手に、2人そろって施設に入居したのです。

〔photo〕iStock

しかし、義兄はいまだに本妻との離婚が成立しておらず、戸籍上の妻は姉ではなく本妻のまま。姉の存在は義兄にとって「内縁の妻」なのですが、法律上、内縁の妻に法定相続権(法律で定められた相続権)は認められていないので、義兄に万が一のことがあった場合、姉は何も相続できない可能性があります。そのため、内縁の妻が遺産相続するには遺言が必須です。

とはいえ、義兄は、捨ててきた家族(妻と長女)には罪悪感があるので、本妻3分の1、長女3分の1、そして内縁の妻3分の1という形の遺言を残すことを望んでいました。当初、義兄は言葉もしっかりしており、トイレには自分の足で行くことができたので、公正証書遺言の手続は滞りなく行うことができたのですが、それから5日後。義兄は入浴中に心臓が停止し、帰らぬ人となったのです。