「脆弱すぎるヘルメット」動画が告発した中国労働者の命の値段

批判沸騰、当局はもみ消し
北村 豊 プロフィール

さっそく脅しと圧力

現場労働者である竇さんは気が向いた時に、“快手”に動画を投稿するのを趣味としていた。その竇さんが安全帽の品質に関する動画を投稿したのは今年の2月と3月にそれぞれ1回ずつ、そして今回の4月11日が3回目であった。

過去2回の内容がどのような物であったかは報じられていないが、3回目ほどに人々の注目を集めることはなかったのだろう。それほどに3回目の動画は刺激的な内容だったという事ができる。

しかし、応急管理部によって上記の発表が行われた4月17日の夜、竇さんはネット上に投稿していた3本の動画を全て自分で削除したのだった。

一躍時の人となった竇さんを彼の出稼ぎ先である山東省青島市で見付け出した中国メディアは、4月18日以降に次々と竇さんへのインタビューを行った。竇さんのメディア各社の記者への答えは次のようなものだった。

1)日頃の仕事で配られる安全帽には品質の良い物もあれば悪い物もあるが、長年働いていれば一目で安全帽の品質の良し悪しを見分けられる。動画を撮影した4月11日当日は現場監督から配られた安全帽の品質が劣悪であったので、その実態を動画で撮影して投稿したものである。

2)4月17日夜に当該動画は竇さんによって全て削除された。また、当局から動画の原因を追究された際に、竇さんは動画の中では「黄色の安全帽は工事現場で配れらた」と述べていたのに、「黄色の安全帽は自分で購入した」と主張を変えた。竇さんに動画削除と主張変更の理由を尋ねると、竇さんは沈んだ口調で「俺も生活しなければならないから」と答えた。

3)4月21日夜のインタビューでは、竇さんは今では正常な生活が出来なくなったと述べた。4月11日の動画が大きな話題となったことにより、今までは関係が良かった“包工頭(請負工事の親方)”が一斉に竇さんに仕事の声を掛けなくなり、全く仕事が見つからず、失業状態になった。このため、竇さんはやむを得ず出稼ぎ先の青島市から故郷の江蘇省連雲港市の農村にある実家へ戻った。

4)しかし、出稼ぎは竇さんの家にとって唯一の収入源であり、出稼ぎが出来ないと生活ができない。竇家には子供が3人おり、このうち2人はまだ学生で、収入が無ければ勉学の継続にも支障が出る。仕事が見つからないだけでなく、竇さんは誰かに報復されることを恐れて外出もままならない状況で、夜も眠れない日々を送っており、精神的に追い詰められている。

 

 
この内容を勘案すると、次のような背景が想像できる。

事態の鎮静化を図った中央政府の応急管理部は4月17日に上述した安全帽に関する国家基準の厳守を命じる発表を行うと同時に、竇さんが滞在していた青島市の応急管理部門に指示を出した。

それは竇さんに対し、「投稿済みの動画を全て削除すること」および「動画の中で実施した強度試験に使った安全帽は工事現場で支給された物ではなく、自分で購入した物であることの言明」を命じるものであった。

この結果、応急管理部門から命令を受けた竇さんは、4月17日夜に動画を削除し、強度試験に使った安全帽は自分で購入したと従来の主張を変更した。

一方、竇さんが報復に怯えているというのは、竇さんの告発によって損害を被る工事業者がいるからである。

たかが安全帽と言っても、国家基準に準拠した品質の良い安全帽を労働者に支給することになれば、労働者の人数にもよるが、その費用は想像以上に大きなものとなる可能性があり、その原因を作った竇さんに対して報復する可能性がないとは言えない。

そればかりか、仲良くしていた“包工頭”が竇さんに仕事の声をかけないのも、工事業者から圧力を受けているものと考えられ、これも一種の報復と言えるのである。

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