日本サッカー界の「金の卵」たちが祖国を離れ中東へと渡る理由

日本がスタートでは遅すぎる…

日本からでは、遅すぎる

「本当に世界のトッププレーヤーを目指すなら、日本で練習していては遅すぎる。いま、中東の育成機関には、欧州から有名クラブのスカウトが視察に来ています。僕もここで世界レベルの指導を受けて、欧州で活躍できるような選手になりたいんです」

こう話すのはUAEのアスリート育成機関SSS(スパニッシュ・サッカー・スクール)でトレーニングに励む中村優心さん。現在15歳の彼は、1年前からUAEに移住し、プロサッカー選手を目指している。

いま、Jリーグの育成機関からJリーグを目指すのではなく、一段飛びで海外にわたり、海外のリーグでプロになることを目標とする若者たちが増えている。その中でもひときわ「移住先」として注目を集めるのが、UAEやカタールといった中東諸国である。

前回記事で、筆者はUAEとカタールが、国を挙げてサッカー強化に力を注いでおり、急速に成長していることを紹介した(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63827)。両国が創設したSSSと「アスパイア・アカデミー」という2つの育成機関は、いま、世界中から集められた将来有望なサッカーキッズたちが在籍していることでも注目を集めている。特にアフリカ系や中東諸国の占める割合いが多いのだが、実は6名の日本人も在籍し、未来のトッププレーヤーたちとしのぎを削っているのだ。

 

彼らはいずれもJユースやそれに準ずるクラブの所属していた若者だったが、UAEの地からヨーロッパでプロを目指すという人生を選んだ。下は8歳、最年長は15歳といわゆる「育成年代」と呼ばれる年齢ながらも、早々と海外に拠点を移している。なぜ彼らは、中東へと向かったのか。彼らの声に耳を傾けると、輝かしい未来が見えてくるとともに、日本サッカー界が抱える構造的な課題が浮かび上がってきた。

「本当のトップを目指すなら、日本のスピード感だと遅すぎる。世界を見渡せば10代後半にはトップクラブで活躍する選手も多い中、日本だと現状、早い選手でも20歳前後にならないと欧州のクラブへの移籍は難しい。その年齢で欧州サッカーに慣れる作業をしても間に合わない。このロスは、さらなる高みを目指すなかで致命的な差だと考えたんです」

UAEの選手育成プログラムであるSSS(スパニッシュ・サッカー・スクール)最年長日本人の中村優心(15)は約1年前から日本を離れUAEで「サッカー留学」を続けている。中村はJリーグAC長野パルセイロの下部組織に所属し、日本でも将来を有望視されていた選手だ。だが、その環境や日本での生活を捨ててまでSSSのプロ育成プログラム(Altorendimiento)のセレクションを受け、合格を勝ち取った。

一番左に座っているのが中村さん

日本でプロを目指すという未練を断ち、UAEに渡ったその理由が興味深い。

「僕は将来ヨーロッパのサッカークラブで活躍し、そこから日本代表入りしたいという明確な目標があるんです。それを踏まえて自分の未来を考えると、SSSに入ることが最善の選択だったんです。とにかく、『上』を目指せるスピードが全然違うんですね。

日本だと、まずJリーグの下部組織に所属していても、欧州クラブのスカウトの目に留まる機会がほとんどありません。欧州へと渡るためのルートもとても限られています。誰かパイプを持っている人を通してでなければ、ヨーロッパへの道は拓けない。間にあるクッションが多すぎるんですね。

一方で、世界中から未来のスター候補が集まってくるSSSだと、常にトップクラブのスカウトが視察にやってきます。それだけチャンスがあるし、日本人であっても10代のうちからもヨーロッパを目指せるんです。実際に僕もスペインのクラブ(リーガ1部・セルタ・デ・ビーゴ)から声をかけてももらい、練習に参加させてもらっていますから」

世界サッカーの中心地である欧州移籍へのコネクションと選択肢の多さ――。これが前回でも触れたUAEの強みでもあり、中村もその環境を活かし、スペインのクラブから評価を受けている。

もうひとつ、中村にとっては“指導者の質”にも日本との最も大きな差異を感じているという。

「厳しい言い方になりますが、日本の指導者は、サッカーに関して1〜10のことを上手く説明できません。”こうしなければいけない“、”これがルールだ”と多くの決まりごとを設定するにもかかわらず、なぜそうしなければいけないかという大切なことを教えてくれないんです。

しかし、SSSのコーチは、戦術からプロになるために必要な考え方までイチから全て丁寧に教えてくれます。練習の中でも、『なぜこんな結果になったか。なぜいまこのプレーが必要なのか』ということを論理的に説明してくれるんです。これは本当に凄いことです。

でも、もしかすると欧州ではこれが当たり前なのかもしれない。こういった世界レベルで考えれば当たり前のことを、日本のサッカー指導者は取り入れていないと思いました。これは、将来ヨーロッパに行ってから体感したのでは遅すぎると思います。SSSには、世界のトップレベルを知る指導者がたくさんいます。彼らからの言葉で、自分の選手としての”下地”が出来ているという手応えを感じていますね」