声をあげて泣く母の横に座って

4年前に高城さんが初めてこの大学病院に来て診断を聞き、病室で声をあげて泣いていたあの夜、宮田さんは早速来てくれて夫婦の横にすわり、医師の説明を一緒に聞いてくれた。以来ずっと、高城さんが医師の大事な話を聞くときは、いつも、その横に宮田さんがいた。

「宮田さんは、がんばれと言ったりはしないんです。ただ、私の言うことを、絶対に否定しないで聞いてくれるんです。出産後は、今度は小児科に来てもらって、私の心がピンチになるたびに話を聞いてもらいました。愛茉ちゃんの手術や治療方針について先生に気持ちが伝わりにくかった時も、宮田さんが間に入ってくれました」

大変な出産をした人は診断時の衝撃でトラウマが残り、「また、同じことが起きるのでは」と次の妊娠が怖いことが多い。そのため宮田さんは、そのあとの妊娠にも寄り添う。

「前の妊娠も、今回の妊娠も、わかってすぐに、宮田さんにメールしちゃいましたよね」

そう笑って、まるで親しい友人にするように宮田さんへ視線を投げる高城さん。この日も2人は妊婦健診で一緒に医師の話を聞いたり、超音波検査の画面を一緒に見て3番目の子の経過が順調なことを喜び合ったりしていた。

高城さんが重い障害のある子どもを育てながら三児の母になろうとしているのも、こうして一緒に歩いてくれる人がいるからかもしれない。

無事に妊婦健診を終えて 撮影/河合蘭

お母さんたちの心のケアが必要な理由

精神看護専門看護師とは、高い専門能力を持つ看護師を日本看護協会が認定するエキスパート資格のひとつで全国に310名しかいない(2019年5月現在)。その中でも宮田さんが詳しく学んだのは、自死や災害で家族を失った人がどうしても突然の喪失を受容できない「複雑性悲嘆」、そして強い衝撃的体験が恐怖となって長く残ってしまうPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)。こうした問題を持つ患者の人たちを院内のさまざまな科でケアしていた。

そんな宮田さんがある日、産科医に請われて産科にやって来て、現代の母たちが、出生前診断で重い心の負担を負っていることがわかった。

「産むにせよ、産まないにせよ、おなかの子に診断がつくことには特有の苦痛が伴います。

たとえば、中絶できる時期がすぎてから赤ちゃんの障害が分かった妊婦さんが『この子は死んでしまったらいいのに』と思ったまま妊娠を続けていて、そう思う自分に苦しむこともあるのです。

考えてみれば、妊娠中は、ただでさえホルモン分泌が大きく変動して訳もなく涙が出たりする時期。妊婦さんはハッピーなんだろうな、と思っていたけれど、もしかしたら本当はいろいろあって、幸せいっぱいな様子を演じるよう期待されているだけなのかもしれない。そこへさらに加わる、あの激烈な苦しみは、お腹の赤ちゃんも相当大きな影響を受けているのではないでしょうか。

それなら、その医療に携わる人間は、『医療が作り出した苦しみ』から、お母さんと、そして赤ちゃんを守ってあげる責務があるのではないでしょうか」

こうして宮田さんは、産科医、助産師と連携しながら、胎児疾患告知後のケアに本格的に取り組むようになった。今後は、今春赴任したばかりの遺伝カウンセラーとも連携する予定だ。