「出生前診断」というと、35歳以上の女性が選択して受ける新型出生前診断や羊水検査などを思う人が多いかもしれない。しかし進歩が著しいいまの医学では、通常の診察で出生前に胎児の先天性疾患の可能性を察知するケースが増えている。つまり、出生前診断は実はすべての妊婦に深く関わっているのだ。

ジャーナリストの河合蘭さんは、2016年の著書『出生前診断-出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』で科学ジャーナリスト賞を受賞している。長く出産の現場と医療の現場を取材し続けてきた河合さんは、医療の進歩とともに「母たちの選択肢」や「自分で決めること」がないがしろにされがちな現状も多く目にしてきた。そこで最新の現場から、様々な母たちの姿と、彼女たちに寄り添う医療従事者を紹介していく。

連載第一回は全国でも珍しい、精神領域を専門にした看護師が出生前診断に深く関わっている病院と、支えられてきたある母の姿をお伝えする。

超音波検査でわかった先天性疾患

妊婦健診で妊婦さんにとって楽しみなのは、何と言っても、超音波検査だろう。赤ちゃんが顔を見せてくれることもあれば、おなかの中で指しゃぶりをしている様子が見えることもある。しかし、この日、大阪医科大学附属病院へ3人目の子の妊婦健診を受けに来た高城美幸さん(36歳)は、この検査のそれとは違う意味を身に染みて知っていた。

超音波検査で3人目の赤ちゃんを診てもらっている高城さん。途中で入ってきたのが、高城さんを前々回の出産時から知る精神看護専門看護師の宮田さんだ 撮影/河合蘭

高城さんは32歳で第1子を妊娠していた時、当時かかっていた別の病院で超音波検査を受けていて、突然「お子さんは先天性の心臓病かもしれない」と言われた。疑われた病気は「ファロー四徴症」。高城さんが覚えているその時の記憶は、必死にその病名をメモしたことと、医師の深刻な様子にとめどなく涙があふれてどうしようもなかったということ。それ以外のことはほとんど思い出すことができない。人生で初めて体験したパニックだった。

その後、新生児の心臓手術ができる大阪医科大学附属病院に転院し、生まれてきた愛茉(えま)ちゃんは症状が特に重かった。予想されなかった他の障害も見つかり、今、愛茉ちゃんは児童福祉法に基づく重症心身障害児の認定を受けている。高城さんは、今もぎりぎりの睡眠時間で介護をしている。

高城さんの第一子・愛茉ちゃん。誕生後に抱っこと写真撮影はできたが、その日から心臓病の治療が開始された 写真提供/高城美幸

それでも、高城さんには療育施設で出会った、とびきり明るくて強いママ友たちや、病気が分かった時、開口一番「生きて生まれてきてくれればそれでいい」と言い切ってくれた夫がいた。そして病院も、心のケアに特別な配慮があった。大阪医科大学附属病院では、先天性の胎児疾患が分かった人には、精神的なケアのエキスパートである精神看護専門看護師・宮田郁さん(大阪医科大学附属病院看護部)がかかわることになっている。 

これは全国的に見ても、珍しいシステムである。

同病院では、2011年、産科医の発案によって、宮田さんが自然死産や胎内死亡、人工的死産(人工妊娠中絶)など「喪失」を経験した人のための特別外来を開設し、担当することになった。産科は、医師も助産師も多忙で、そうした人たちの話を十分に聞いてあげられないことに悩んでいたのだ。

やがて宮田さんは、その外来でのかかわりを通じ 、母たちの苦しみは出生前診断から始まっていることに気づいて、今度は自らの希望で産科医の「胎児ハイリスク外来」にも関わりはじめる。これらの外来に来る人をおもな対象として、診察に同席したり、電話で相談に乗ったりする宮田さんは、胎児の重大な病気が分かった母たちにとっていつでもSOSサインを送れる「お守り」のような存在だ。