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ホンハイ郭会長の動向が、アジアの命運を決めると断言できる理由

一介の国民党員でありながら…

いま、アジアでこの男ほど、大それた野望を抱いている人物はいない。

郭台銘(グオ・タイミン 英名テリー・ゴウ)、68歳。昨年、5兆2938億台湾ドル(約19兆2200億円)を売り上げた世界最大のEMS(電子機器受託生産)企業、ホンハイ(鴻海精密工業)の創業者にして会長である。

先月17日に、台湾総統選挙(2020年1月)に名乗りを挙げたことは、先々週に本コラムで詳述した通りだ。

・鴻海会長の台湾総統選参戦に習近平がほほ笑む理由(2019年4月23日)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64281

この「台湾のトランプ」と呼ばれる男は、救国のヒーローなのか、それともアジアに悲劇をもたらす悪魔なのか――。

これから来年1月の台湾総統選挙まで、そしてもし総統選挙に勝利したならその後も、郭台銘の一挙手一投足を、本コラムでお伝えしていく。なぜなら、今後の日本も含めた東アジアの命運は、この男が握っていると言っても過言ではないからだ。

日本は「令和の10連休」が終わったばかりで、「えっ、それってどういう事?」という声も聞こえてきそうだ。そこで以下、分かりやすく説明したい。

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張忠謀か、郭台銘か

私はこの30年、私たちが暮らす東アジアについて研究してきたが、その中でいくつかの「法則」を見出した。その一つが、「韓国と台湾の類似性」である。

韓国と台湾は、政治的には戦後の長い一党独裁政権の末に、20世紀の終盤に民主化を果たした。韓国で「6・29民主化宣言」が出されたのと、台湾で世界最長38年も続いた戒厳令が解かれたのは、ともに1987年のことだった。

また経済的には、1980年代から「4つの小竜」(韓国、台湾、香港、シンガポール)と称されて、日本に続く「アジア資本主義の雄」として発展していった。さらに軍事的には、韓国は北朝鮮、台湾は中国という、それぞれ「厄介な隣人」を抱えながら、アメリカに頼って生きている。

そんな中で、韓国に鄭周永(1915年〜2001年)というビジネスマンが、1992年の大統領選挙に名乗りを挙げた。江原道(北朝鮮側)の貧農の家庭に育ち、裸一貫で現代グループを韓国ナンバー1の財閥に押し上げた立志伝中の人物だ。

鄭は晩年、「経営者的大統領になる」と宣言して、77歳で大統領選挙に立候補。そして388万票を獲得したものの、善戦及ばず、金泳三候補に敗れた。その後、「鄭周永の弟子」李明博が、2008年に大統領に就いた。

こうしたことから、台湾でも「経営者的総統」を目指すビジネスマンが現われるに違いないと、私は睨んでいた。

 

台湾を見渡すと、「国民的な実力と人気」という観点から、TSMC(台湾積体電路製造)を世界最大のファウンドリ(半導体チップ生産)に押し上げた張忠謀(モリス・チャン)か、ホンハイを世界最大のEMSに押し上げた郭台銘しか、候補者はいない。

だが、張忠謀はすでに87歳と高齢で、しかも性格は慎重居士で守りの人である。とても政界に進出するとは思えず、実際に今回の総統選挙に関しても、「我没有評論」(私はコメントしない)を貫いている。

もう一人の郭台銘は、現在68歳で、総統選挙に出馬するには「ラストチャンス」である。米中貿易戦争によって、ホンハイは多大な被害を被っており、「自分で何とかしたい」という気持ちが強いだろう。しかも積極果敢で攻めの性格だから、出る可能性は十分あると思っていた。かつ現在の台湾の状況は、経済が停滞し「経営者的大統領」が求められた1992年の韓国に、ソックリなのである。

かくして、4月17日の「媽祖のお告げ」による出馬宣言となった。それによって、郭台銘は、「台湾のトランプ」というニックネームを頂戴した。

だがアジア的には、第一に「台湾の鄭周永」と言うべきである。当時の韓国は「3金時代」(金泳三、金大中、金鍾泌が仕切る時代)で、まだまだ「政経分離」の風潮が根強かったので、鄭周永は当選しなかった。

歴史に「たら、れば」は禁物だが、もしあの時、鄭が大統領になっていたら、経済的にかなり韓国を押し上げていたのではないかと思う。その意味で、私が郭台銘に期待するのは、「台湾の鄭周永」としての地に足がついた「経営者的総統」としての側面である。

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