盗掘・密売の一方で…日本人研究者に訊く「中国恐竜、ここがスゴい!」

「恐竜大陸をゆく」特別編!
安田 峰俊 プロフィール

盗掘や転売はなぜダメージが大きいのか

――乱開発のほかに盗掘や化石の密売も、中国の古生物学界が抱える負の面です。

非常に大きな問題だと思います。特に1990年代から2000年代にかけては、中国でまだ古生物化石の輸出規制が十分になされておらず、海外の市場に本物・贋作を含めて多くの化石が流出しました。

化石の流出は、産地情報が失われることによって、大幅に科学的な価値を下げる危険を孕んでいます。

たとえば、有名なのは2009年に報告されたラプトレックス(Raptorex)というティラノサウルス上科の恐竜です。ラプトレックスはアメリカの化石市場で購入された標本をもとに論文に記載されました。当初は中国遼寧省の義県層で出土した、白亜紀前期の標本だとされていたんです。

ラプトレックスラプトレックスの復元図 Illustration by Nobu Tamura / Creative Commons

――白亜紀前期の遼寧省でティラノサウルスの仲間といえば、ディロング(Delong)やユウティラヌス(Yutyrannus)なんかの、近年の有名どころの恐竜が思い浮かびますね。

はい。熱河層群は基盤的なティラノサウルスの仲間がいくつも見つかっている場所ですし、ラプトレックスの標本自体も熱河層群の中でよく見られるように、圧密を受けて多少平らな形状をしていました。

遼寧省出土説もまったく無理のある説明ではなかったわけです。

――なるほど。しかし、実際の出土地はどうやら違ったみたいですよね。盗掘されたことで、本当の産地がわからなくなっていた。

その後の研究によって、ラプトレックスが出土したのは中国内モンゴル自治区のイレン・ダバス層または外モンゴル(モンゴル国)の地層だったのではないかと考えられるようになりました。

これらは白亜紀後期の地層ですから、遼寧省の義県層とはすくなくとも4000万年近く時代が離れています。

どちらで発見されたかによって、ラプトレックスの持つ科学的な意味はまったく異なってしまいます。

――せっかく現在まで残った化石が、盗掘や密売のせいで正体不明の存在になって「迷子」になってしまうのは悲しいですね。

何千万年も経てやっと見つかった化石が「迷子」になってしまうのは、研究者にとっても悲しいことです。

ラプトレックスの件以降、中国でも盗掘や密売を防ぐための法律が整備され、鳥や恐竜などの化石が海外に流出することは基本的にはなくなりました。

──なるほど。

ところで、個人的にはある程度の化石の商業流通には賛成です。私も12歳頃から、自分の部屋を「驚異の部屋」(中世ヨーロッパの博物陳列室。ミニ博物館のようなもの)にしようと少しずつ化石を集めていました。

特に日本では、東京で年に2回開催されているミネラルショーが恐竜ファンの活発な交流の場になっています。また同時に、一般の人が直接化石に触れることができる、貴重な教育普及の場でもあります。

――私自身、鉱物ショップなどに行くと、売られている恐竜の歯の化石やアンモナイトの化石が欲しくなってしまいます。なにごともバランスですよね。一定のルールが定められたうえでなら、楽しんでよいものです。

そうですね。遼寧省朝陽市にある慕容街という場所では、以前から骨董品街に混ざって古生物化石を売る店が並んでいます。法規制の進んだ現在でも、魚や一部の昆虫の化石などは合法的に売買することが可能になっていますよ。


研究者の立場から見た、中国国内の恐竜研究の強みと問題点はこのようになっているのだ。

とはいえ、まだまだ尋ね足りないこともある。次回記事では黒須さんの専門分野でもある、羽毛恐竜をはじめ中国恐竜のなかでも特に熱い存在である獣脚類について、中国恐竜学の「内部の視点」をご紹介していくことにしたい。

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