サクラさんが絶望させてくれたから
“もっと頑張ろう”って思えた

さて、映画の中でアカネは、ワンダーランドへと冒険に行く際、錬金術師のヒポクラテスから、“前のめりの錨”を首にかけられる。その錨が、「できっこない」が口癖の、自分に自信のないアカネをグイグイと前に進ませるのだが、元々前のめりな性格だという松岡さんがそれでも消極的になってしまうとき、果たして何によって、自分を奮い立たせるのだろう?

「それは、素敵な同業者の皆さんです。例えば『万引き家族』でご一緒した安藤サクラさんのお芝居に、私は打ちのめされましたし、嫉妬しましたし、だからこそ自分に対して絶望もしました。お芝居って不思議で、しゃかりきに頑張らなくたって、自分にしかできないことはあるし、自分が今できる以上のことは、どうしたってできない。それはわかりきったことで、だから絶望なんかしなくても、本当はいいんです。

ただ、私の場合は、サクラさんが絶望させてくれたから“もっと頑張ろう”と思えた。樹木希林さんもそうです。あんな風にはなれない、あんな風には生きられないと思うからこそ、素敵だな、カッコいいな、生きるって面白いな、演じるってすごいなと思う。すごい人たちと共演すると、絶望と希望が同時に襲ってくる感じです」

こんなにも聡明で、こんなにもひたむきな彼女だが、作品に入る前は、いつも不安に押しつぶされそうになる。どんなに役が評価されても、どんなにキャリアを重ねても、クランクイン前には、毎回ブルーな気分に取り憑かれる。

「今まで、ハッピーに迎えたクランクインは一度もないです。『できないよ』『もうやめよう』と思いながら、勇気を振り絞って現場に行きます。始まったら楽しいですし、あのブルーな気分は何だったんだと思うのですが、これだけは、毎回、慣れないですね」

ところで、20歳になる少し前から、松岡さんは自分の母に“全力奉仕”しているのだという。

「もしかしたら、反抗期時代の罪滅ぼしの意味もあるのかもしれません(笑)。役ではなく、松岡茉優としてテレビに出る時は、母を悲しませたり、がっかりさせたりしないように、発言や態度にできるだけ気をつけています。母は、映画の宣伝で電波ジャックする日なんかは、『観てるよ』ってメールを送ってくれます。

私は、私生活まで、役を引きずる方ではないんです。でもなぜか母には、その時々の私の心の状態を、いつも見透かされます。私は普段通りにしているつもりでも、例えばちょっと疲れていると、『茉優ちゃん、言葉が荒れてる。今やっている役、大変なのね』とか。だいたい2秒でバレます(笑)」

撮影/村田克己
©柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会

映画『バースデー・ワンダーランド
誕生日の前日、アカネの目の前で骨董屋の地下室の扉が突然開く。そこに現れたのは、謎の大錬金術師とその弟子の小人だった。「私たちの世界を救ってほしい」と懇願されたアカネは、好奇心旺盛な叔母のチィに促され、<幸せ色のワンダーランド>へと足を踏み入れる。アカネたちとそっくりな人たちが暮らすそのワンダーランドは、色が失われる危機に瀕していた。全国公開中 配給/ワーナー・ブラザース映画

監督:原 恵一(「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(01年)「百日紅〜MissHOKUSAI〜」(15年)など)
原作:柏葉幸子『地下室からのふしぎな旅』(講談社青い鳥文庫)
脚本:丸尾みほ
キャラクター/ビジュアル:イリヤ・クブシノブ
音楽:富貴晴美
出演:松岡茉優 杏 麻生久美子 市村正親 ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画

Styling Yusuke Arimoto(NANAKAINOURA) Hair& Makeup Ai Miyamoto (yosine.) イヤリング¥15,000(イリーヴァ・ジュエリー/イリーヴァ&コー ︎TEL:03-3049-5353)、リング¥15,000(エテTEL:0120-10-6616)