お芝居をするとき、自分に来た役を、
どれだけ幸せにできるかを考えます

「ミドリさんもうちの母も、“母親”として自分の理想を押し付けたり、あれこれ世話を焼いたりするのではなく、一番身近な“傍観者”でいてくれるんです。子供だからといって子供扱いはせず、きちんと自我を持った一人の人間として扱ってくれている。何が正しいのか、何をしたいのかを、自分で考えさせて、決めさせてくれる。それは、娘を信用して、愛してくれているからこそ、できることなんじゃないかと思います」

松岡さん演じる主人公のアカネ(写真左)と麻生久美子演じる母親のミドリ。松岡さんにはすべてを受け止めるミドリの姿が自分の母親に重なって見えた。そして今、松岡さんは役そのものを尊重して受け止めている ©柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会

相手を信用して、全力で愛する――。それは、松岡さんに、「役を演じるときに、一番大事にしていることはなんですか?」と質問したとき、返ってきた答えによく似ていた。

「お芝居をするとき、私は、自分に来た役を、どれだけ幸せにできるかを考えます。その女の子には、きっと自立した意思があるだろうし、見えないけれど、魂もあると思う。もしかしたら、他にもっとその役に合う人がいたのかもしれないけれど、私に任せていただいたからには、その役の持つ魂に、ちゃんと成仏してほしいんです。私が演じながら、彼女に、『あれ、私そんな風に思ってないのに』というような、悲しい思いをさせたくない。役のことは私が一番近くで、愛していたいと思う。演じるとき、一番大事にしていることはそれです」

だからだろう。彼女の演じた役は、出番が長かろうと短かろうと、観る人の心に残る。昔懐かしい友人のように。なり損なった自分のように。弱さも強さも人間臭さも、高潔さも愚かさも24歳という年齢を考えさせず、役を通して表現できる。では、その愛のエネルギーはどこから来るのか。

撮影/村田克己

「一つは、彼女たち(役)に報われてほしいという思い。もう一つは、やらなきゃご飯が食べられないからです。もちろん、頑張る理由は、“こういう人に届いてほしい”“こういう方がこういう風に思ってくれたらいいなぁ”や“両親に喜んでもらいたいな”“もう10年も会っていない、あの子に見てもらいたいな”など、たくさんたくさん、いろんな思いがあります。

でも、根底にあるのは、“演じることがお仕事”“役の女の子たちに報われてほしい”というその二つですね。もちろん、お芝居は好きだし、好きじゃなきゃやっていられないとも思うけれど、あまりに“好き”って気持ちを大事にしすぎると、そこに執着しすぎて、苦しくなる

私もある時期まで“好きだから”ということだけで突っ走って、自分が辛くなる経験を何度か繰り返してきたんです。映画を撮っていても、監督に『私はこう思うんです!』って、自分の思いをストレートにぶつけてしまって、現場の流れを止めてしまったりとか。それが、“これは、あくまで仕事なんだ”と思うことで、少しラクになれました。

きっかけは、20歳の時にある先輩から、『俳優は、一生懸命役を演じることでお金をいただく。頑張る対価をもらっている。それに対して、周りに何を言われようと関係ないでしょ』という言葉をいただいたことです。その言葉は本当に大きかった。

100%でやって、お金をいただくことで、私たちのお仕事は、一旦完結する。そんなシンプルな構造を受け入れられたとき、作品に対して、嬉しい言葉や嬉しくない言葉をいただいて、一喜一憂することがなくなった(笑)。ものすごく忙しい時期でもありました。演じることは大好きだけれど、“仕事なんだ”とはっきり認識できたことで、ラクになっただけでなく、自分自身がもっと軽やかでいられるのかなと思いました。誰から聞いたかですか? それは内緒です。私のためにくださった言葉なので……」