腰痛に悩んだら「マインドフルネス・ウォーキング」を始めるべし

「心療整形外科」を始めた医師が説く・第3回
谷川 浩隆 プロフィール

痛みの感じ方が変わってくる

「そうは言っても『今』に注意を向けたら、今の痛みがよけいはっきり感じられて辛いじゃないか」という意見もあると思います。私もそう考えていました。

臨床心理学者の山中寛さんは、自身のがんとの闘病に自己観察法や自律訓練法をとりいれました。

著書の中に「五感を感じ続けることによって、結果的に感情や痛みから自己解放を目指す方法もある。認知行動療法の中で最近注目されているマインドフルネス瞑想がそれである」とあります(『ある臨床心理学者の自己治癒的がん体験記~余命一年の宣告から六年を経過して』金剛社刊)。

そして山中さんはガンという、明らかにからだに原因のある、しかもとても激しい痛みに対して、マインドフルネスを実践して痛みを制御したのです。

腰痛や肩こりが強く日常生活に支障をきたしている患者さんにもこの方法は応用できます。

少し体調がよくてこころに余裕がある時に、実践してみてください。あおむけに寝てゆっくり深呼吸をします。今、痛みを感じる場所を確認して、痛みを冷静に感じてみます。

呼吸によって痛みがどうなるかを確認します。ゆっくり目を閉じて、からだの力を抜き、呼吸も穏やかにします。呼吸をしていることを意識して、空気が鼻の穴から肺に入っていくのを感じます。

そうしながらもう1回、痛い場所を確かめます。腰なら腰、肩なら肩に徐々に注意を向けていきます。

ほかのことを考えそうになってもいいのですが、考えそうになっている自分を感じてください。痛みだけを感じてそれによる不安や原因は考えないようにしてください。

1回数分でいいのです。1日に数回このようなことを行えば、もう立派なマインドフルネスです。痛みだけにとどまらず人生全体について悲観的になってしまう破局的思考は鎮まって、痛みの感じ方が変わっていくことでしょう。

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からだは、そう簡単にこわれない

腰痛や足のシビレがある患者さんが一番心配なのが「歩いたり動かしたりすることにより、病気が悪化してしまうのではないか」ということでしょう。

どの程度の運動ならいいのか、医者に聞いてみたことがある患者さんもいるはずです。そんなとき医者の回答は、たいてい「無理をしない程度にしておきましょう」といった紋切り型のものです。

例えば、急に張り切って運動をすれば、翌日、だれでも筋肉痛になります。こういう痛みは、筋トレによって筋肉が作られる時の痛みですから「よい痛み」です。

こういう痛みはからだの悪い人に起こるわけではなく普通の人でも当たり前。オリンピックの選手だって筋トレの翌日、筋肉が痛くなるのは当然です。

しかし不安が強い人は、そういう痛みにも過度に敏感で「運動のせいでからだを悪くしたのではないか」と心配になり、整形外科を受診します。

最近は特にこのような傾向が強く、町でマラソン大会があった翌日は「太ももやふくらはぎが痛くなった」といって受診する患者さんが増えました。「午前中に10キロマラソンに出たら、ふくらはぎがはってしまった」といって午後に受診した患者さんもいます。

心配なことがあれば不安をかかえているよりは医者を受診してもらうことに何の問題もないのですが、多くは心配のない一過性のものです。しかしたまに筋断裂や筋内血腫、あるいは関節の故障を起こしている患者さんもいるわけです。

すると医者としては、そのごく少数の場合を考えてしまい「運動はどんどんやって大丈夫です」と言いづらくなるのです。ごくわずかの最悪の場合を医者は想定しなければいけないため、安易に「大丈夫」ということがいえません。

医者が「運動をして下さい」と患者さんにお話しして、患者さんが運動をしたとたんに痛みが出たとしたら、患者さんから医者は責められます。「運動したらよけいに痛くなったじゃないか」と。

積極的な治療を提案してそれが裏目に出たときを医者は警戒するのです。だから、あまり積極的なことは勧めずに安全運転で「ほどほどに」と指導するのです。

人間のからだは、そう簡単にこわれません。運動やウォーキングをしたことにより決定的に悪化したという腰痛の患者さんは、私の30年の経験では一人もいません。
こわがらず、からだを動かし始めることが大切です。

最後に歩くときのコツを説明しておきましょう。