腰痛に悩んだら「マインドフルネス・ウォーキング」を始めるべし

「心療整形外科」を始めた医師が説く・第3回
谷川 浩隆 プロフィール

「自分に合っていればどんな方法も正解」

『腰痛診療ガイドライン』には、こう書かれています。

「腰痛体操の種類によって効果の差はない」

面白くないですか? 慢性の腰痛には運動が有効ですが、「それはどんな運動でも同じ効果」というのが現在の結論なのです。とにかく「からだを動かす」ということが重要で、からだを動かすなら「どんな方法も全て正解」だというのです。

ただし、いろいろな体操や運動をしてみて、どれが一番自分にあっているかを決めることは大切です。自分にあった運動は他人に決めてもらうのではなく、自分のからだで感じて、自分の直感で判断して、自分で決めるのです。

ではなぜ、特殊な体操やエクササイズをとりあげ「この方法が腰痛に一番効果的」、「○○するだけでいい」などといった本やテレビ番組が多いのでしょうか。実は「運動ならなんでもよい」のだけれど、よりスペシャルな、簡単にできそうな方法を提案したほうが本が売れやすいし、視聴率が上がりやすいからです。

「なんでもよい」より「〇〇がいい!」と断言してあげた方が悩める人に治療の方法がイメージしやすく良く伝わる、ただそれだけのことです。

私も悩んでいる患者さんに、診察室で「何でもいいんです」とは言いません。「ウォーキングをしてみましょう」と言うのは、患者さんがイメージしやすいからです。

腰痛や肩こりには、ウォーキングのような単純な運動が効果的です。単純ですが「歩く」という動作には背筋、腰筋、くびまわりの筋肉など多くの体幹筋が使われます。私は、腰痛や肩こりで運動の方法がわからない患者さんには「まず1日2㎞、汗ばむくらいの速度で歩いてみましょう」と指導しています。

自分の痛みや症状を、自分でしっかり感じながら、少しでもいいからとにかく始める、ということが重要です。当たり前のことですが、慢性の運動器痛は1回の体操やウォーキングでは治りません。3日やっても治りません。まずは1週間続けてみる、それができたら2週間、1ヵ月と継続していけるはずです。

今だけを感じるマインドフルネス

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ウォーキングを奨めるとき、Dさんには「無心になって」「今の自分だけを感じながら」と、言いました。

何でもいいからからだを動かすとき、特にウォーキングするとき、もっとも意識してほしいのはこの点です。

過去への反省、未来への思い煩いを断って、「今」だけをみつめながら、からだを動かすことが痛みの治療には、とても重要なのです。

これはトレーニングによってより上手にできるようになるのですが、最近は特にマインドフルネスという方法が広く紹介されています。

マインドフルネスには「気づき」とか「注意の集中」という意味があります。こころを穏やかにして、自分のからだで感じる「今の瞬間」に意識をあてていく方法です。

禅や瞑想に似ています。これがマインドフルネス認知療法として、メンタルの疾患にも運動器痛にも有効なのです。

こころを平静にして自分のからだの「今」をみつめるマインドフルネスは、全身の筋肉をリラックスさせて呼吸を整えていきます。筋肉の緊張がほぐれると交感神経から副交感神経に作用が変わっていきます。

交感神経が緊張しっぱなしの状態からやすらぎの副交感神経優位となって自律神経のバランスが整えられていきます。

腰痛や肩こりの原因となっていた筋肉の緊張状態や感覚神経の過剰な興奮がなくなり痛みが徐々に消えていきます。自分一人で自己治癒力をあげていくことができる「こころとからだの基礎作り」の治療法です。