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「東京福祉大学」と「消えた留学生」の深き闇

「移民クライシス」の現場から
出井 康博 プロフィール

アルバイトに追われ上達しない日本語

“偽装留学生”はアルバイトに追われ、日本語が全く上達しないケースが多い。タン君に限っては、少なくとも会話は進歩した。出会った頃にはあいさつ程度しかできなかったが、日本語学校を卒業する頃には、通訳なしで簡単な会話が成立するほどになった。

2年近く日本語を学んでいるのだから当然と思われるかもしれないが、“偽装留学生”としては珍しい。それもアルバイト先で、店長ら日本人と積極的にコミュニケーションを取ったおかげだった。

日本語学校を卒業後、タン君は専門学校に進学して出稼ぎを続けるつもりでいた。“偽装留学生”の多くが辿るパターンである。

留学生が専門学校や大学に進む場合、海外から直接入学しようとすれば「N2」が条件となることは前述した。ただし、この条件は、日本国内の日本語学校卒業者には免除される。日本語が全くできない留学生であろうと、学校が認めれば入学は可能なのだ。

近年、日本人の少子化の影響を受け、私立大学の半数近くで定員割れが起きている。専門学校に至ってはさらにひどい。そこで“偽装留学生”を受け入れ、生き残りを図る学校が急増している。

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進まぬ職探し、そして登場した「東京福祉大学」……

そうしてタン君が専門学校探しを始めようとしていた頃、うどん店の店長からこんな話を持ちかけられた。

 

「日本語学校を卒業したら、うちで就職してみない?」

タン君にとっては願ってもない申し出だった。就職できれば、専門学校に学費を払うことなく出稼ぎができる。しかも、店の仕事を「アイシテマス」と言うほど気に入っていた。

すっかり就職できる気になったタン君は、進学先を探すのをやめてしまった。だが、卒業時期が近づいても、就職話は進む気配がない。店長に尋ねても、「まだ、本社で決まっていない」と言われるだけだった。

うどん店での就職が決まらず、しかも進学先がなければ、ベトナムに帰国するしかなくなってしまう。タン君は仕方なく、再び進学先を探し始めた。

3月が近づき、受け入れてくれる学校も少なくなっていた。そんななか、頼ることにしたのが「東京福祉大学」だった。しかし、タン君は最終的に東京福祉大学への進学を拒み、ベトナムに帰国することにした。彼が入学しようとした同大の「研究生コース」は、年間62万8000円の学費がかかる。日本語学校と同様、学費を払って出稼ぎの権利を与える日本の狡猾な“システム”に、これ以上組み込まれ続けたくなかったのだ。

「もう、疲れました……」

タン君はそう言い残して日本を去っていった。