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人口減少が自衛隊に及ぼす影響に、日本人は気づいていますか?

これこそ、この国にとっての有事だ

李登輝からの手紙

4月の初め、台湾の元総統、李登輝氏から手紙をもらった。その中に次のような文があった。

「東アジア情勢が刻々と変わっていくなかで、自衛隊の持つ役割はさらに重要性を増していくものと思います。また、安全保障のみならず、近年増加する災害救助といった役割にも自衛隊が大きなウエイトを占めていることは自明であります」。

3月に上梓した自著『人口減少と自衛隊』(扶桑社新書)を李登輝氏に贈呈したのだが、その礼状だった。最後に「今まで以上に、多くの日本の皆さんの関心を喚起し、日本がいっそう正常な国家として進むことを願っております」と結んであった。

これは単なる献本への御礼と社交辞令、ということだろうか。実はこれは、今回の著書に対する反応のなかでは、もっとも真剣なものの中に入ると感じた。しかも世界に尊敬される、「台湾の民主主義の父」と呼ばれている指導者からのものである。

いうまでもなく、日本国内でも、自衛隊の「人材難」問題については、かなり前から報道がされてきた。また、人口減少についても、将来の日本社会への影響が以前から取り沙汰されている。

しかし、李登輝氏の視点は、人口減少による日本の国力低下、特に自衛隊の人手不足が、東アジアという地域の安定にとっての問題であるという危機感の上に立っている。この問題は日本国内でこれほどの深刻度で捉えられてきただろうか。

もとより台湾は、大陸の中華人民共和国からの圧力の下にある。安全保障問題に敏感になるのは当然であろう。その台湾から見て、自衛隊の将来は無視できないほど重要な要因なのである。

対して日本人にはまだ十分な危機感があるとは思えない、この地域の安定に係わるほど大きな問題を改めて分析し、その対策について考えてみたい。

 

人口減少がもたらす「有事」

一昨年、出版されるや話題となりベストセラーになった『未来の年表』の著者、河合雅司・産経新聞論説委員は、外国メディアの取材に、「100年あまりで人口が半減しようとしている人口大国は、世界の歴史のなかでもひとつもない。北朝鮮のミサイルの脅威や大災害と同じように、国家を滅ぼし得る脅威であり、これを私は“静かなる有事”という言葉で説明します」と答えている。

「有事」は過言ではない。人口減少は、経済だけではなく、安全保障の観点からも、日本が直面しているもっとも深刻な問題である。私は、軽視できない北朝鮮の脅威よりも危険であるとも思っている。

日本の人口は2010年の1億2806万人をピークに減少を続けている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、このペースで推移すると、ピークから半世紀たった2060年には約4分の3の9284万人になる。また条件をどのように設定するかでいくつかの予測が成り立ち、河合氏が使ったような、50年で3分の2、100年で半減という推計もあり得る。

さらに社会や組織への影響を考えるとき重視すべきなのが若年層、生産年齢人口の推移である。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2060年には2010年に比べて、15歳から64歳までの生産年齢人口が3300万人減少し、全体のシェアが51・6%になるのに対し、65歳以上の高齢人口は600万人上昇し、シェアは38.1%に達する。

いうまでもなく、現役世代への高齢者の扶養負担が過大になっていくが、国や自治体も設備やサービスの提供に追われ、しかも対応しきれない状況まで予想される。

これは自衛隊や日本の安全保障という側面には、人材確保難と防衛関連予算の圧迫という形で直接響いてくる。

これだけではない。日本ではあまり指摘されてこなかったが、私は加えて「若者の大量海外流出」についても危惧すべきと考えている。

多くの日本人にとっては想像できないだろうが、若年人口の減少と、高齢人口の増加がある程度まで行き着くと、多くの若者が日本の将来に見切りをつけ、日本を飛び出してもっと活気があり負担が少ない国に移住する可能性が高まる。その場合、人口減少も国力の低下もなだらかな下降ではなく、ある段階で急速に降下する事になる。

つまり、流出は波ではなく津波になりかねない。その際、いわゆる専門家はその現象は「想定外」だと片付けようとするが、そうではない。これは世界の歴史を見れば、いくつも事例が存在する。

現在、行われている推定よりさらに厳しい事態にも、備える必要があると考える。