「歩行とは何か」を追求

2005年、慶應義塾大学博士課程の修了を待たずに、遠藤氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学した。MITは、コンピューターの分野で数々の業績を残し、ノーベル賞受賞者を数多く輩出していることでも知られる、米ボストン近郊にある名門私立大学だ。

彼がこの大学を選んだのは、ロボット技術を用いた義足歩行研究の第一人者、ヒュー・ハー教授がいたからだった。ハー教授自身も、両足に下腿義足を使用している障害者だ。十七歳の時、登山中の凍傷で両脚の膝から下を失い、医者から二度と登山はできないと宣告された。しかし彼はその言葉を受け入れずにロッククライミング用の義足を自作し、いまも登山を楽しむ強者(つわもの)である。ハー教授の、自身を障害者だと思わず、むしろ障害を技術で克服しようとする姿に、遠藤氏は感銘を受けた。

障害者は存在しない。ただ身体的障害を克服するテクノロジーが不足しているだけだ

そんな信念を持つ教授のもとで、遠藤氏は研究に取り組んだ。

「世界を変える若手技術者」に選出

従来の義足は、残存している肉体各所の力で義足を前に押し出す仕組みになっていたが、それが使用者の大きな負担で、健常者の歩行と比べて疲労を感じやすいという欠陥を持っていた。そのことはハー教授と二人で街を歩く時にも感じていて、同じ速度で同じ距離を歩いていても、教授だけが玉の汗をかいているということがよくあったのだ。

遠藤氏は人間の歩行を徹底的に解析した。そして、「歩行とは足を前に出すことではなく、足で地面を蹴り出すこと」という仮説にたどり着く。遠藤氏はその仮説に基づき、歩いても疲れない義足を目指して改良を重ね、2010年、モーターやバネなどの部品を可能な限り小さく軽量化したハイテク義足の発表にこぎ着けた。

この義足は、限界まで軽量化したモーターの力で地面を蹴って進むことができた。センサーが感知して適切な歩行速度をとれ、装着した人に「自分の足で歩いているみたいだ」と言わしめた。この研究成果により、2012年、遠藤氏は、世界で最も歴史ある科学技術雑誌、MITが発行する『テクノロジー・レビュー』誌の「世界を変える若手技術者35人」に選出された。

尊敬するハー教授と遠藤氏 写真提供/遠藤謙