鳩山総理と小沢幹事長の間を
緊張させる官僚の「罠」

普天間問題を契機に静かなクーデターが始まる
佐藤 優 プロフィール

 鳩山総理と小沢幹事長は、官僚を選別するための国家試験では、所詮、教科書と参考書の内容を記憶して(必ずしも理解しなくてもいい)、限られた時間内に筆記試験で復元する能力しか測ることができないと考えている。

 物事の本質を洞察する力、他人の気持ちになって考える力がエリート官僚に欠けているのは、これらの数値化できない能力を試験で測ることができないからだ。

政治家と官僚の間の権力闘争

 鳩山総理と小沢幹事長は、官僚の能力が卓越しているという神話を信じていない。標準的な能力をもつ国会議員ならば、忍耐力をもって取り組めば、官僚が担当している業務の大枠は理解できると考えている。

 民主的統制から外れ、社会から隔絶したところで、現実離れしたゲームをしている官僚を放置しておくと、国家が崩壊するので政治主導を回復するというのが民主党連立政権の基本方針だ。ここで、国会議員と官僚の間で、「誰が国家を支配するか」をめぐってかつてない権力闘争が起きている。

 鳩山総理が、沖縄県民の切実な声を真摯に受け止め、米海兵隊普天間飛行場の移設先について「最低でも(沖縄)県外」という主張を総選挙前にも、総選挙中にも、そして総選挙後も続けた。5月28日に、辺野古への移設を明示した閣議了解を採択した後も、鳩山総理は、将来的に、米海兵隊を沖縄の外に移動することを考えているのだと思う。

 これに対して、官僚は、自民党政権時代の日米合意で定められた辺野古案にもどすことが死活的に重要と考えた。それは抑止力を維持するためではない。

 政権交代が起きても、外務官僚と防衛官僚が組み立てた辺野古案がもっともよいという結果になれば、日本国家を支配するのが官僚であるということが、国内においてのみならず、米国政府に対しても示すことができる。普天間問題は、官僚にとって、「日本国家の支配者がわれわれである」ということを示す象徴的事案となのだ。

 内閣総理大臣という1人の人間の中に、国民を代表する要素と官僚を代表する要素が「区別されつつも分離されずに」混在している。普天間問題について、この2つの要素が軋轢を強めた。こうして、鳩山総理の中で自己同一性(アイデンティティー)の危機が生じた。

 当初、鳩山総理は、国民の側、すなわち沖縄県外への移設に舵を切ることで問題の解決を図ろうとした。そのとき、鳩山総理を支える有力な根拠となったのが、総選挙で沖縄に4つある小選挙区で、沖縄県内への移設を容認した自民党候補が全員落選したことである。

 この選挙で小選挙区から当選した4人の国会議員は、全員与党だ。これは沖縄史上初めてのことだった。ここで、直近の民意が「最低でも県外」であることが明白になった。

 もっとも沖縄には別の民意もある。

 2006年に県民によって直接選挙された仲井真弘多・沖縄県知事が、辺野古の沖合ならば県内に普天間飛行場の代替施設を受け入れることを容認していたからだ。