宮本武蔵の極意は「枕をおさえる」!?

【5分de名著】宮本武蔵『五輪書』訳注:鎌田茂雄③
講談社学術文庫 プロフィール

[訳者解説]とにかく、先手に廻れ!

〔付記〕
何ごとも先手を打つということが大切である。後手に廻ったならばおくれをとることは人生の勝負においてもしばしば見られることである。「機先を制す」という言葉があるが、兵法だけでなくどんな仕事をする場合にも先手に廻ることは必要なのである。

 

禅宗の問答などにもこれと似たような例はいくつもある。たとえば『臨済録』には、つぎのようなやりとりがある。

上堂。云く、赤肉団上(しゃくにくだんじょう)に一無位(いちむい)の真人(しんじん)有り。常に汝等諸人の面門より出入す。未だ証拠せざる者は看よ看よ。時に、僧有り、出でて問ふ、如何なるか是れ無位の真人。師、禅牀(ぜんじょう)を下つて把住(はじゅう)して云く、道へ道へ。其の僧擬議す。師托開して云く、無位の真人是れ什麼(なん)の乾屎橛(かんしけつ)ぞ、といつて便ち方丈に帰る。

この内容はどういうことかというと、上堂して臨済が言った。「この赤肉団上に一無位の真人がいて、常にお前たちの面門を出たり入ったりしている。まだこの真人を見届けていない者は、さあ看よ!さあ看よ!」と。

その時、ひとりの僧が進み出て問うた。「その無位の真人とは、いったい何者ですか」と。臨済はいきなり席を下りて、僧の胸倉をつかまえ、「さあ言え!さあ言え!」とやった。その僧は擬議した。
臨済は僧を突き放して「これでは無位の真人もかわいた糞同然ではないか」と言って、そのまま居間に帰ってしまった。このやりとりには一瞬の停滞なく、臨済はまさしく先手、先手をとったのである。

著・宮本武蔵 訳注・鎌田茂雄 『五輪書』より