「どうせ快方はしないのだから」

10時の飛行機に乗るためには、早く起きなければならない。寝る前に痛み止めを2錠飲んで朝に備えた。翌朝、旭川に飛んだ。インタビューをテープに録音し、そのまま羽田空港に引き返し、原稿をまとめてもらうライターに手渡す。翌日に原稿をもらい、記事は間に合った。

三浦綾子さんご夫妻とご自宅前にて 写真提供/小西恵美子

リニューアルの準備段階から睡眠時間は短く、神経を使うためか、以前よりも身体が痛い。朝起きた時のこわばりも強くなってきた。ロルカムは1日3回、1錠を服用するように処方されたが、痛みが強くなるとためらいもなく1回に2錠飲んだ。時間が経って、痛くなればすぐに1錠を飲む。今、動けることが重要だった。眠れないと精神安定剤のデパスや睡眠導入剤のレンドルミンやマイスリー、ハルシオンを使い分けた。

この頃、仕事が面白くて仕方なかった。母の闘病生活を見ていて、リウマチは治らないと思っている。今、どれだけ充実しているかが大事で、「治す」「快方に向かう」とは考えなかった。

睡眠時間を削り続けた。残業の夕食は、会社の近くの中華料理店や洋食店に閉店間際に滑り込んで、急いで食べる。途中でお腹がすけば、編集部にもらったお菓子を食べた。

新聞や週刊誌、ほかの女性誌、テレビで気になる内容があればメモして練り直して、企画会議に提出する。仕事を始めた頃は、作家も文化人も芸能人も初めて会う人ばかりだ。依頼しても、忙しい、テーマが合わないなどの理由から断られる場合が多い。それを重ねているうちに、実現でき、しだいに次の企画につながり始めた。セイルに風をとらえて、ヨットが進み始めた感じがした。

指にステロイド注射を打って仕事に向かう

朝、起きようとするが身体全身が固まり、手も腕も肩も足も膝も痛い。動けない。ベッドに横たわって脚や手を動かそうとすると、ズキンと痛む。じっと耐えた。

午後からは表紙の撮影だった。スタッフの昼食や飲み物を買い、スタジオに運ばなければならない。注射を打って、痛みを止めるしかないと思った。この頃は広尾の日赤医療センターの整形外科に通っていたので、予約はないがとにかく向う。受付で事情を話して、待合室の椅子にドスンと落ちるように座る。ゆっくり座ると、足を踏ん張る状態になってかえって痛い。名前を呼ばれると、すり足でお運び人形のような歩き方で診察室に入る。

先生は顔をじっと見て、「注射はできるだけ使いたくないんだが。今日はステロイドの注射をするけど、次はないから」と言って看護師に指示する。「痛いよ。手の指の関節は注射液が入る隙間がないから。痛い?」と聞かれ、私は「指が無理に膨らんでいく圧迫感というか違和感はありますが、痛みはたいして」と言って笑うと、医者は怪訝そうな顔をした。

「注射も痛いですが、リウマチの痛みが強いので、こんなものかと思いました。リウマチの痛みは24時間休みなしですが、注射は一瞬というか短時間です。どうってことありません」と言うと、先生はあきれていた。

注射は全身に回り、やっと動けるようになった。買い物をしてスタジオに着いた時には、いつもより痛みが軽くなっていた。ヘアメイクに続いて、スタイリストがアシスタントと一緒に腕にたくさんの衣装を抱えて入ってきて、「相変わらず元気そうね」と私に言った。さっきまで病院にいて、ステロイド剤の注射を打ったとは誰も気がついていない。

次回は5月17日(金)公開予定です。