Photo by iStock

介護疲れゆえの親殺しをどう裁くのか?高齢化問題に物議を醸す話題作

柚月裕子『検事の信義』インタビュー

罪をまっとうに裁く

―『検事の信義』はストイックに事件の真相を追いかける検事・佐方貞人の活躍を描いた大人気シリーズの最新刊です。佐方は、架空の都市・米崎市にある地検公判部に所属し、相棒である事務官・増田陽二とともに法の正義を追求していきます。

今作には4つの短編が収録されているのですが、そのうちの一つ「信義を守る」で、佐方はある殺人事件を担当します。殺害されたのは認知症を患った高齢女性・道塚須恵。そして、須恵を長年介護してきた息子の昌平が犯人として逮捕、起訴されます。

近年、老人介護の問題が新聞やニュースで取り上げられる機会が増えてきて、私も小説のテーマにしたいと考えていました。とりわけ、この昌平による事件は、実の親を殺す尊属殺人。

家族にしかわからない複雑な事情や感情が絡んでくる。同様の事件を扱った報道やノンフィクションを読むたびに「これは法律で裁ける範囲のものではないのではないか」という感想を持つことが度々で、書いていても難しさを感じました。

―母を介護していた昌平には、調べれば調べるほど情状酌量の余地が出てきます。しかし、彼は自らの罪が重くなるような証言ばかりを重ねていく。いったい、なぜなのか。

疑問を感じた佐方は、補充捜査を進めます。同じ取り調べを経ても、「これ以上調べる必要はないのではないか」と感じている相方の増田とは対照的ですね。

佐方には「罪はまっとうに裁かれなければならない」という強い信念があります。まっとうに裁かれるからこそ、事件の関係者の心に救いがもたらされる。だから、少しでも引っかかる部分は自分の足を使って徹底的に潰していくのです。

今回、佐方がこの事件を解明するヒントは、昌平の供述から浮かび上がってくる「空白の2時間」です。昌平は母親を殺害した現場から逃亡したものの、身柄を拘束されるまでの2時間の行動が不可解だった。

遠くに逃げるでもなく、隠れるでもなく、現場からわずか5キロ離れた場所をさまよっていただけ。その足跡を佐方が丹念に調べていくと、語られざる事実が浮かび上がってくる、という展開です。

この「2時間」のような佐方の気づきは、ドラマ『刑事コロンボ』につながるものです。コロンボも、ほんの些細な違和感を見逃さず、犯人や真相にたどり着くきっかけを掴みますよね。そして、「あとひとつだけ」と、イヤな質問をする(笑)。

周りの気がつかないところに目を向け、鼻を利かせるコロンボの姿は、まさに佐方に重なるものがあります。