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81歳認知症父の騒動で実感した「高齢者の運転を止める」難しい実情

池袋の悲しみを繰り返してはならない

2019年4月19日に起きてしまった池袋の暴走事故は、ドライバーにとって、そして運転を続ける高齢ドライバーの家族にとってのみならず、誰にとっても他人事ではない悪夢のような出来事だった。暴走した車は多くの人を次々と轢き、幼い子供とその母親の命を奪ってしまったのだ。

なぜ運転が危うい高齢者であっても運転ができる環境が続くのだろうか。自ら認知症の父に運転をやめさせるために1年間過酷な経験をしたライターの田中亜紀子さんがその要因を明らかにする。

今、私たちがしなければならないこと

被害者の夫が告別式を終えた4月24日に開いた会見(会見全文はこちらの朝日新聞の記事で読める)は、言葉を絞り出すような、心からの言葉だった。多くの人が言葉も出なかったことだろう。ご遺族には、心からお悔やみを申し上げる。

今、私たちがその思いに寄り添い、少しでも応えるためにできること、必ず考えなければならないのは、会見で最後に言われたこの部分についてのことではないか。

「それぞれのご家庭で事情があることは重々承知しておりますが、少しでも運転に不安がある人は車を運転しないという選択肢を考えて欲しい。また、周囲の方々も本人に働きかけて欲しい。家族の中に運転に不安のある方がいるならば、いま一度家族内で考えて欲しい。それが世の中に広がれば、交通事故による犠牲者を減らせるかもしれない。そうすれば、妻と娘も少しは浮かばれるのではないかと思います。

今回の事故をきっかけに、さまざまな議論がなされ、少しでも交通事故による犠牲者のいなくなる未来になって欲しいです」

高齢者や飲酒による交通事故が起こるたび、社会的な論争になるが、残念ながら事件は繰り返されている。私は、2017年、父が81歳から82歳になる時期に、1年がかりで運転をやめさせるために手をつくす途上、さまざまな障害や問題に出会い、その難しさを実体験した。その詳細は昨年、こちらの記事にて詳しくのべているが、そこで感じたのは、本人がやめる気がない場合、「高齢者で運転があやしくなったから」「認知症だから」と運転をやめさせることの予想以上の難しさだった。

免許更新までの期間は3年間

まず17年3月、改正された道路交通法のおさらいをしよう。この時から75歳以上のドライバーは免許更新時に認知機能の検査が加わり、事故をおこした時にも同様の検査を行うことが決まった。前進したとはいえるが、免許更新までの期間は、他の年代と同じ3年間のままではある。ちなみに、内閣府の調査によると、平成28年度は75歳以上の運転免許保持者は75歳以上の人口の3分の1の約513万人を数える。

近年、社会問題化していることから自主的に免許返納する高齢者も増えてきたとはいう。しかし、その多くはきちんと自分で物事を判断できる人だ。認知機能の低下その他で適切な判断ができない人ほど、人の意見に耳を傾けず、危ない状況でも運転をやめない傾向もあると思う。

現在83歳のうちの父もその一人だった。運転が大好きで81歳当時も一日に4、5回、車で近所に出かけていた。車に傷がふえたのと、認知症を疑った私が17年初めに病院での検査と免許返納を提案したものの、聞く耳なし。本人は長年無事故無違反だったことと、元教師でプライドが高い性格だったので「失礼だ」と激怒し、病院にもいかず運転を続け、修羅場の1年が幕をあけた。