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# 尊厳死 # 終末期 # 自己決定

みんなで決める終末期?

患者と医師と人工呼吸器と

政治のありようが患者の寿命を決める

筋萎縮性側索硬化症Amyotrophic Lateral Sclerosis(ALS)、英国では他の疾患も含めて運動神経疾患Motor Neuron Disease (MND)と総称される。

運動神経だけが選択的に侵され、全身の筋肉が麻痺し、短期間で随意に動けなくなる。最終的には、呼吸筋も侵されて呼吸不全に至るが、気管から呼吸器を装着し、適切な医療と介護を受けることさえできれば、長期生存も可能である。発症率は10万人に2〜5人ほど。原因不明。治療法が確立していない、短期間に全身の麻痺が進行する超難病である。

治療に関する考え方や公的保障・法律の在り方が、国や地域により異なるなど、社会の在り方が患者の予後を左右する。例えば、オランダではおよそ5人に1人の患者が安楽死を選択する。一方、日本ではALS患者総数の30%以上が(東京では40%を越えたということだ)人工呼吸器で長期生存している。これは、他の先進国とは比較にならない驚異的な高率である。

「ごく簡単に言うと、身体が次第に動かなくなる病気」(立岩真也『ALS 不動の身体と息する機械』)。確かにそのような病気なのだが、社会のありようが、もっとはっきりいうのであれば、政治のありようが、患者の寿命を決めているのである。

ALSの治療について詳しく知りたいという人は、日本神経学会の「筋萎縮症側索硬化症診療ガイドライン2013」を参考にしてほしい。

無理解な行政との交渉

でも、「自宅で普通に暮らしたい」ということであれば、各種公的制度を知らねばならないし、地元の自治体に交渉しなければならないこともある。

病院では得られない情報もある。

例えば、退院後に自宅に戻ったら、ひと月当たり何時間くらいの介護サービスを受けられるのか、といったことや、経管栄養や喀痰吸引などに対応する良質な介護者は、どうやったら見つけられるのか、ということ等である。かといって、市町村の障害福祉の担当職員が、親身になってくれるわけでもない。

2019年4月、埼玉県吉川市の障害福祉課の職員が、介護支給量の調査のために、市内在住の男性ALS患者の自宅を訪問した際、患者はヘルパーに文字盤を取らせて、その職員に自分の意思を一文字一文字、伝えようとしていたところ、職員は「時間稼ぎか?」という言葉を発した。このことはその日のうちにネットで拡散し、翌日にはYahoo!ニュースのトップに上がり、ALSのことをよく知らない人からも、担当者の態度は強く非難されることになった。

かような福祉職は全国にいて、横柄な態度で障害当事者を侮辱するのだが、当事者は何度も繰り返し、その人たちに向かって介護給付を交渉し、なんとかして長時間の介護給付を獲得しなければならない。さもなければ、家族にのしかかる介護負担を回避するために、永久に施設入院になるか、さもなければ人工呼吸器の装着を諦めなければならなくなるからだ。

死にたくないのに治療を断るという悲痛な決意は、ALSの療養支援をしているとしばしば見られるが、自殺にも値するものだと私は思う。しかし、治療の選択という側面だけから見ると、本人の自己決定ということになってしまうので、誰の責任にもならず、なんら問題にもならないのである。