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「日本翻訳大賞」はなぜこれほどファンを熱くさせるのか

専門家と読者が一緒につくる文学賞
参加者(読者)と選考委員が驚くほど熱くなる文学賞をご存知だろうか? 翻訳文学を愛する翻訳家と読者が、その年の一推しの翻訳作品を選出する「日本翻訳大賞」である。賞の立ち上げ時には、70万円を目標とするクラウドファウンディングに約340万円が集まったほどだ。
4月27日に行われた第5回の授賞式にも、200人超のファンが集まった。なぜこの賞はこんなにも参加者を熱くさせるのか――。選考委員の一人でアメリカ文学研究者/翻訳家の柴田元幸さんに語っていただきました。

読者の推薦文が熱い!

日本翻訳大賞は、主に文学の翻訳をしている翻訳家5人が、翻訳者仲間のよい仕事をたたえよう!と思い立ち、仲間たちの助けを得て、2015年に始めた賞である。

その5人とは、言い出しっぺの西崎憲をはじめ、金原瑞人、岸本佐知子、柴田元幸、松永美穂である。松永はドイツ文学の翻訳者で、あとの4人は英米文学。

日本翻訳大賞は、公もしくは企業からの資金援助を受けず、クラウドファンディングや寄付によって運営されている。言い換えれば、翻訳を愛する読者の方々の支援によって成り立っている。スタートしたときのクラウドファンディングは、一日で目標額が集まった。

運営に携わってくれている仲間は、相原佳香、平岩壮悟、与儀明子、米光一成の4人。いちおう言っておくと、選考委員5人、運営委員4人のうち誰も、支援してくれる読者同様、全然儲けていない。

日本翻訳大賞は、けっこう熱い賞だと思う。まず第一次選考は、読者の推薦で決まる。最新の第5回でいえば、2017年12月~2018年12月までの13か月のあいだに刊行された翻訳作品のうち、一番推したいものをそれぞれの読者がウェブ上で推薦した。

野球のオールスター戦のファン投票に似ているが、ただしオールスター戦と違って、こちらの投票には100字程度の推薦文を添えないといけない。

まずこの推薦文が熱い――というか、これが一番熱い。みんな、自分の言葉で語っている。雑誌の新刊紹介に時おりあるみたいに、いかにも帯の文句と訳者あとがきを適当につないで書いた感じとは全然違う。ワタシはこの本を推したい、という気迫がひしひしと伝わってくる。これらを読んでいると、ああ翻訳文学を熱く語る読者が日本にはこれだけいるのだなあ、と幸福な気持ちになる。

 

専門家たちが訳文をチェック

まず読者推薦の多かった10作が、第二次選考に進む。加えて、選考委員5人が推薦作を一点ずつ挙げ(これもオールスター戦の監督推薦の要領)、計15作。この15冊を委員5人が読んで、5冊に絞り、最終選考に。

が、5冊に絞って最終選考へ進む前に、大事なプロセスがひとつ。原著が英語・ドイツ語で書かれているなら我々選考委員が訳文を原文と比較対照できるわけだが、これまでの受賞作だけ見ても、韓国語、チェコ語、英語、バスク語、フランス語、スペイン語、ポーランド語、ポルトガル語と多岐にわたる。

なので、15作中、英語・ドイツ語以外が原文の作品については、その言語の専門家に原文と比較してもらい、訳文の質を評価してもらわないといけない。こうして専門家から返ってくるレポート、これがまた熱いのである。

みんなやっぱりその言語の文学に思い入れがあるし、煩雑な比較作業を終えたあとなので、当然言いたいことはいっぱいある。読んでいて実に面白い。このレポートを公表できないのは非常に残念である。