子供を授かることは想像以上に難しい

全国の中学校、高校などで性教育の講演を行っている、話題の産婦人科医“えんみちゃん”こと遠見才希子さんは、このA子さんの例をもとにこう話す。

「残念ながら、望んでも妊娠出産できるとは限らない現実があります。生殖医療の現場では、不妊治療を行っても妊娠されずに通院を卒業される方々がいます。年齢の因子以外に、不妊の原因が特定できない方も多い。また、妊娠しても流産してしまうこともあります。

私自身、流産と不妊を経験しています。妊娠が確認された人の15%前後、年齢によってはそれ以上の確率で流産が起こります。妊娠初期の流産のほとんどは染色体異常が原因なので、受精した時点で流産に至ることが決まっているといえます。なので、仕事や運動のしすぎなどが原因ではありません。誰のせいでもないのです。

それでも抱えてしまうものがある。これまで流産の患者さんをたくさん診療し原因を理解していても、自分自身が流産したときは大きなショックを受けました。

こういった妊娠、出産ができない人の気持ちは、経験した人でないとわからないことがある。どんな言葉をかけられても、救われないことがあるということを実感しました。その後、体外受精で妊娠しましたが、出産するまで、妊娠したことを積極的に人に伝えることができませんでした。

無事に産まれるどうかは最後までわからないからです。大きな問題が起きないことがほとんどですが、突然、赤ちゃんやお母さんの状態が変わってしまうこともあります。仕事で色々なお産に携わらせていただいてきたからこそ、“妊娠して出産する”ということがいかに奇跡であるということ、すごいことだということを痛感しています

国立社会保障・人口問題研究所が2015年に調査した『第15回出生動向調査』(妻の年齢が50歳未満)によると、不妊を心配したことのある夫婦は3組に1組(35.0%)を超え、子どものいない夫婦では半数以上(55.2%)が不妊に悩んでいることがわかった。実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は全体で18.2%。子どものいない夫婦では3割弱(28.2%)が何らかの不妊検査や治療を開始しているという。

ポジティブな言葉に傷つくこともある

次の例は、不妊治療で離婚も経験したB子さんだ。

 [アパレル勤務 B子さん・45歳の場合]

私は子供がいません。38歳で離婚しています。30代半ば、前の夫と不妊治療を行いました。検査の結果、夫の精子の数が少ないことが要因のひとつとわかりました。数年続けましたが、なかなかできず、私自身も職場で役職がついて仕事が楽しくなってきたこともあり、不妊治療は2年弱で終了しました。でも、夫はさまざまな検査をしたこと、精子の数が少なかったことがコンプレックスとして残ってしまい、私との関係に蟠りを持つようになり、歯車が合わなくなり、結局離婚してしまいました。

41歳のときに、仕事で知り合った米国人の男性とつき合うようになりました。彼は子供好きで、「早く僕らの子供がほしいね」と言われたのですが、私の中では、前の夫と不妊治療を終了した時点で「子供がいない人生を考えよう」というモードに切り替わっていたので、これから子供を持つ人生を考えることができませんでした。

でも、彼は「心配かもしれないけど、きっと大丈夫。うちの母は弟を46歳で産んでるんだよ。キミならまだまだ産めるよ。アメリカでは40代の出産もポピュラーだよ」と……。彼は彼なりに思いやりで言ってくれたのかもしれませんが、「そんなプレッシャー……、あんたのかーちゃんとは違うんだよ!」と怒りとも似たモヤモヤ感でいっぱいになり、関係は上手くいかなくなりました。私の彼に対する愛情がその程度だったのかもしれませんが、“子供がいることが当たり前”の結婚が重くなってしまい、結局別れてしまいました。

過去に不妊治療をしていたこと、前の夫を不妊治療で傷つけてしまったことも関係していたのかもしれませんが、授かる・授からないということは、とてもデリケートでパーソナルな問題だということを自ら認識しました。