性差別、ヘイトスピーチ論議に必須!「表現の自由」の超基礎知識

憲法学者が丁寧に解説します
志田 陽子 プロフィール

「表現の規制」以外の選択肢がある

ジェンダー平等へ向けた問題意識から見れば、問題視したい表現はメディア上に多く見られる。しかしそのすべてを法律や条例で規制すべきではなく、上述の「表現の自由」による社会の自発的是正のルートを信頼すべきことがまず原則であり、社会文脈からみて切迫した必要性のある問題に限定して、対処を行うべきである

しかし、法規制までは行うべきでないと考えられる多くの問題について、「規制になじまない」で議論が終わるわけではない。法の議論として、規制以外にも多数の選択肢がある。

 

なんらかのコントロールや調整が必要であると考えられる表現ジャンルや表現物があった場合、取り扱いの「禁止」を命じる規制の前に、それ以外の手段がとれないかを問う必要がある

まずは作家・メディアと規制を必要とする当事者とで、対話を行う場が必要だろう。また、表現者やメディアの自主的な取組みが功を奏する場面は多々あり、そうした場面では、自律的な努力を尊重するべきだろう。

また、児童虐待や家庭内暴力(DV)の問題は緊急を要する課題である。こうした行為を助長するおそれのある表現を規制するという話の前に、この問題に対しより直接的な方策をとり、必要な財源を割り当てる議論をするほうに問題意識を集中させるべきだろう。

国の政策努力が「表現規制」という比較的容易な課題のほうに流れ、現実の虐待問題解消に向けた、支援的・福祉的取組みが疎かになってはいけない

このように、表現への法規制は、《自由制約の度合いがもっと少ない方策》を試したという実績があって、それで効果がなかった場合に初めて認められるべきものである。

「ヘイトスピーチ」など、この思考手順によってもなお「表現規制に踏み切るしかない」との結論に至る具体的問題があった場合には、法による規制もやむなし、との結論になるかもしれない。本当は、そうならずにすむ社会を作ることが理想ではあるのだが……。

2019年3月2日 記