――なるほど。では、何か具体的に、自分を俯瞰で見る方法はありますか?

市川:私は、急に胸がドキドキしたときとか、緊張したときに、足の指を動かしてみて、「あ、足の指はここだ」って感覚を思い出します(笑)。頭がパンパンになっているときに、身体のことを確認すると、いわゆる“思考”から一度離れられるように思います。

演じるときには、感情をコントロールする必要があって、頭ばかりを動かして、身体のことは無視してしまうこともある。頭だけじゃなく、特に上半身の内臓とか心臓とか、腰から上の部分をぎゅーっと固めてしまっていることもある。でも、そういうときに、足の指の感覚を確認したり、深呼吸をして、違うところに意識を持っていくと、「今の身体ってこうなのか」とか、「そうそう、この感じ」って気づいて、現実に戻れるというか。ちょっと冷静になって、頭を冷やせる気がします。私も練習中なのですが。

ところで私、『初恋〜お父さん、チビがいなくなりました』を2回観た話、しましたか?

――いえ。されてないです。

市川:実は私、この映画を2回観ていて、1回目と2回目で、お父さんに対する印象がガラリと変わって、自分でも驚いたんです。最初に観たときは、娘目線でお父さんのことをすごく嫌だと思った。人の話を聞かない頑固オヤジで、お母さんから離婚を言い渡されても仕方ないって(笑)。

でも、それから10ヶ月ぐらいして、もう一回観たとき、今度は、お父さんの人柄が立ち上がってきて、すごく切なかったんです。お父さんが年をとって、予想もしなかった自分に出会ってしまったとき。社会とのつながりの中で、精一杯働いて、頑張ってきた人が、年齢を重ねて、社会から疎外されるかもと思ったとき、どんなに苦しいか。

ずっとお母さんに話したいことがあったけれど、見栄やプライドのせいで、それができなかったこととか。お父さんの苦しみが理解できたとき、ラストシーンが、前に観たときよりキラキラして見えた。

どんな映画でも、受ける印象は、自分の心情や体調に左右されるものですが、1回目と2回目のあいだに、私の中にもいろいろなことがあって、見方も変化したのかもしれない。だから、何が言いたいかというと、私の中でも、「お父さん、嫌なおじさんだ!」というのは、思い込みに過ぎなかった。人間は日々刻々と変化していくということです(笑)。