追悼・スーパー天文学者、海部宣男さん(元国立天文台長)

世界の天文学の発展に寄与

子どもたちに夢と希望を与えるアルマ望遠鏡

「子供から、『お父さん、僕はブラックホールが見たい』と言われたので、『お父さんがきっと見せてあげるからね』と話したんです」

2012年3月5日、チリ、アンデス山脈の標高2900mにあるアルマ望遠鏡の山麓施設。

パラボラアンテナ66台が並ぶ電波望遠鏡(干渉計)アルマは、標高5000mのチャナントール高原に日米欧の国際協力プロジェクトとして建設されたが、その現場である山頂施設は酸素濃度が低いため長時間の滞在はできない。そこで、アンテナの遠隔操作などを光ファイバーを介して行う拠点がこの山麓施設だ。

この時が、私のアルマ現地の最初の取材だった。

その山麓施設で数人の日本人天文学者と声を交わしたが、その1人、若い天文学者がこんな父と子の対話を話してくれたことがずっと忘れられなかった。そこで私は、「アルマは子供たちに夢を、感動を与える」ということを忘れないよう肝に命じながら取材を続けたのである。

あの父と子の対話のエピソードを聞いてからおよそ7年と1ヵ月。2019年4月10日午後10時過ぎ、国際協力によるイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)のチームが、

「史上初、ブラックホールの撮影に成功した」

と、1枚の画像を発表した。この発表に世界は驚喜した。まさか、ブラックホールが撮影できるとは!

あの若い天文学者も、子供に「お父さんたちは約束を果たしたよ」と語っているに違いない……。

取材した若き天文学者には、EHTの本間さんも!

そこで、あの山麓施設で7年前に撮影した写真をアルマ取材のハードディスクで探したところ、すぐ見つかった。3人の若い天文学者が写っていて、3人が手にした名刺の文字も読めた。取材で同時に何人もの方に会う場合には、後に顔と名前が一致するように名刺とともに顔写真を撮らせてもらうのが私の取材法なのだ。

7年前に会った1人の名刺の文字が読めた。

国立天文台 電波研究部水沢VLBI観測所
准教授 理学博士 本間希樹

まさか! 本間希樹さんは、深夜の緊急記者会見で、あの劇的なブラックホールの観測成果を興奮ぎみに、しかし誇り高く発表したあの天文学者ではないか! まさに、お父さんは息子との約束を果たしたのである。

【写真】アルマで出会った若い天文学者たち
  2012年3月5日、午後12時40過ぎ、アルマ山麓施設で会った若い天文学者たち(写真・山根一眞)
【写真】本間希樹さん
  3人の1人、名刺を手にする本間希樹さん。2017年4月、『巨大ブラックホールの謎』(ブルーバックス)を出版している(写真・山根一眞)

EHTは、世界の6ヵ所8台の電波望遠鏡をリンクさせて巨大な干渉計として観測を行ったが、その中核がアルマ望遠鏡だった。

国立天文台の広報担当でもある天文学者、平松正顕さんが、

「アルマの12メートルアンテナ37台を組み合わせると、集光面積としては直径70メートル強のアンテナに相当します。他の7カ所のアンテナが10〜30メートルであることを考えると、アルマは圧倒的な高感度です。これにより、ブラックホール観測全体の感度が向上したんです」

とアルマの貢献がきわめて大きいことを知らせてくれたので、私は急ぎ、ネット記事を書いた。

天文学史上最大とも思えるその成果発表に接して目が冴えて眠ることができず、チリの現地にいた国立天文台の副台長、井口聖さん(長年にわたり国際アルマ計画の中でアルマ東アジア・プロジェクトマネージャを担当)と未明までメールでEHTプロジェクトの成果についてやりとりを続け、明け方になってやっと眠りについた。