朝ドラ『なつぞら』で起きた「見事な転調」を賞賛すべきだ

圧倒的なきらびやかさ
堀井 憲一郎 プロフィール

お為ごかしじゃないセリフがいい

9話ではひとり川べりで火を起こし、遠火で魚を焼いている。魚をただぼんやり見つめているシーンが18秒ほど流れる。動かないなつを見つめる18秒である。そこから亡くなった父の手紙を取り出し、内村光良(父役でナレーター)の声で読み上げられる。慟哭するなつ。また、浅草へ行こうなという声を聞き、見ているこちらまで涙が止まらない。

家族と浅草に行った楽しい日をおもいだしているなつ。

そこで、草刈正雄じいちゃんたちがなつを見つける。「なつ」と声をかける。昔の家族のことをぼんやりおもいだしていたなつは、一瞬うれしそうな顔になって振り返り、でも自分の家族ではないことに気付く。なつの顔が崩れる。

このドラマでもっとも哀しかったシーンだ。

声をかぎりにと叫ぶ。

「どうして、どうして私には家族がいないの。」

黙ってなつを見つめるしかない。

怒れ。もっと怒れ、とおじいさんが叫ぶ、

なつは「ばかやろう」と叫ぶ。おじいさんに駆け寄り、しがみつき、大声で泣き続ける。

抱き寄せて「おまえはもう、そばに家族はおらん……」と呟くおじいさん。

「だが、わしらがおる。一緒におる」

「おじいさん、おじいさん」となつは泣き続ける。

子供の寂しさが、ただ、突き刺さる。

どうして私には家族がいないのという叫びに対して、私らが家族だ、というお為ごかしは言わず、「家族はおらん、わしらがおる」と言い切るじいちゃんがたまらない。

ここでひたすら泣かされた。9話が私の中でピークだった。あとはなつが北海道に馴染んでいく姿を見つめた。緊張から寛解。すてきな10話から12話である。

 

なつの言葉は人を動かす

9話でなつを本気で怒ってしっかり抱きしめた松嶋菜々子もよかった。

級友の天陽くんが土地を捨てて北海道から去るかもしれないと知って、なつは、天陽くん一家を助けてください、とおじいさんに頼む。健気ななつは、とにかくいい。

断られると「うそつきっ」となつはおじいさんを強く睨んで、必死で訴える。

「おじいさん、自分の力ではたらいていたら、いつかだれかが助けてくれるもんだって言ったじゃない。てんようくんはがんばっているの。ひとりで土をたがやしているの。てんようくんをだれが助けてくれるの」

なつの強い言葉は人を動かす。