朝ドラ『なつぞら』で起きた「見事な転調」を賞賛すべきだ

圧倒的なきらびやかさ
堀井 憲一郎 プロフィール

「おまえなら大丈夫だ。だからもう、無理に笑うことはない。謝ることもない。おまえは堂々としてろ。堂々と、ここで、生きろ。ええな。はよ食べ」とアイスクリームを勧める。おじいさんのやさしい言葉に、泣き出しそうな顔になるなつ。その表情が沁みてくる。

この子は、走り方がとてもかわいい。牛舎へ駈けていく姿が、5話からとてもはしゃいでるように見える。

 

「育ての母」のひと言がしみる

5話で、郵便局員に東京の家族へ手紙をどうやって出せばいいのかを聞く。いくらですかと聞いたあと松嶋菜々子に、「おばさん、お願いします。手紙をだす十銭、貸してもらえませんか」と頼む。

そう言われたときの松嶋菜々子の表情がせつない。

「なにさ、それ。そんなことは、いいから。なっちゃんは、いまここで暮らしてるけど、なっちゃんでしょ。東京にいるお兄さんだって、親戚の家にいる妹さんだって、なっちゃんにとっては大事な家族でしょ。

そういう気持ちを、隠す必要はないの。そういうなっちゃんを、おじさんもおばさんもここで育てたいの。わかる? なっちゃんは自分のおもってることを、素直に言えばいいのよ。いくらでも手紙を出しなさい。書きなさい。謝らないで。お金のことなんて気にしないで」

このやがて「育ての母」になる人の言葉は沁みる。私たちと一緒にいてもあなたはあなただ、という言葉がとても素敵だ。

6話では牛の出産シーンがあった。子供を産まないと乳は出ないべさ、と教えられ、牛を見て「みんなお母さんなんだ」と呟くなつがたまらない。

お兄さんからの手紙が来ないのは、わざとなんじゃないかと考えて、なつは「お兄ちゃん、わたしはだいじょうぶです、わたしはしあわせです」と泣きながら手紙を書く。我慢できなくなって、なつは夜明け前に家を抜け出し、東京を目指して駆け出す。「さようなら」と一声かけて、草原を走る。その幼いが懸命の走りぶりに、ただただ泣ける。

週が明けて7話。

なつは帯広の町までたどりつき、勝手に靴磨きを始める。自分ひとりの力で本当に生き抜こうとしている。東京で浮浪児として生きていたころをおもいだし、兄に向かって「わたし靴磨きは得意だから、まかしといて」と元気いっぱいに語る昔のなつの姿が、ひたすらに健気である。

8話では帯広の川べりで級友の天陽くんと出逢う。彼が釣った魚をもらい、その魚を両手で抱えて、帰る天陽くんにむかって寂しげに笑う。この、寂しげな笑顔が、いろんな感情を巻き起こしてしまう。

東京の孤児院で、兄と別れるシーンをおもいだす。兄がおじさん(藤木直人)になつのことを頼み込んでるシーンだ。

「おじさんお願いします、なつを幸せにしてください。不幸にしたらぜったいゆるさねえからな、おぼえとけ」と啖呵を切る兄にしがみついて泣き崩れるなつと、そのあと北海道に着くまで一切泣かなかったというなつの姿。回想シーンがせつない。